
半藤一利著
平凡社ライブラリー
各900円(税抜き)
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私には学校で現代史をきちんと教わった記憶がない。戦後生まれの世代はみなそうだろう。
「なぜ、どのようにして太平洋戦争が始まったのか」「なぜ日本人だけで300万人以上が亡くなり、広島、長崎に原爆が投下されるまで戦争を止められなかったのか」と子供たちに問われても答えるすべがない。ましてや、「戦前と戦後の天皇制の変化と天皇の役割は」などと外国人に質問されても、ほとんどの大人は口を閉ざすしかない。
この本は、昭和史を学び直す格好の教材だ。著者は「週刊文春」「文芸春秋」の編集長を歴任した歴史小説家。『昭和史1926-1945』と『昭和史1945-1989』で約1200ページもあるのだが、授業のように語り起こしているので一気に読める。
なぜ昭和史を学校で教えないのか。昭和6(1931)年に満州事変が起こり、たった5年で「2.26事件」、「日独防共協定」、「大日本帝国」の呼称決定、中国で「抗日民族統一戦線」が誕生し、戦争への流れが決定的になる。一般に関東軍(陸軍)の暴走との理解がされ、海軍はみな反対だったかのような印象があるが、実際はそう単純ではない。
著者が明らかにするのは、同時多発的に進行する事実と、戦争遂行派が反対派を抑える人事の妙だ。これを教科書と黒板で教えるのは難しい。さらに様々な解釈があり、入試で出題されにくいことも影響している。
日本史は中学、高校でも教えるが、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の時代や、司馬遼太郎氏が描く幕末の坂本龍馬、西郷隆盛や『坂の上の雲』の登場人物の方が面白いから、いつも現代史は3学期の最後で時間切れになる。
私の父は大正14(1925)年生まれで、海運会社の通信士として働いていて徴用された。乗っていた船が魚雷で沈められたものの九死に一生を得る。しかし父もまた語りたがらない。
戦後編でも、たった5年の間に今日の日本という国の形が決まったことに驚く。通読して強く感じるのは、やはり「人事」が組織を動かし、世の中を動かしていくという事実である。
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