
村上 龍著
幻冬舎
1200円(税抜き)
 |

この人のエッセイは利く。媚びていないからだ。
「現在まわりに溢れている『趣味』は、必ずその人が属す共同体の内部にあり、洗練されていて、極めて完全なものだ。(中略)だから趣味の世界には、自分を脅かすものがない代わりに、人生を揺るがすような出会いも発見もない。(中略)真の達成感や充実感は、多大なコストとリスクと危機感を伴った作業の中にあり、常に失意や絶望と隣り合わせに存在している」
村上龍氏は、「趣味を語るようになったら、“老いぼれ”の域ですよ」と著書の中で断じているのだ。
著者を改めて紹介する必要はないだろう。同姓で同じ時期に人気になった村上春樹氏と比較する人もいるようだが、私は常に社会問題をにらみながら執筆する「テロリスト」を匂わせる龍氏の作風が好きだ。
この本は、趣味を持たずに生きる仕事好きな若手はもちろん、多くの団塊世代の人に読んでほしいと思う。彼らは退職するなどして、第一線を退きつつある。今後数年で配偶者を含め1000万人が第2の人生をスタートする。山歩きもガーデニングもペットもワインも盆栽もいいが、社会的には隠居せず、徹底的に現役であってほしい。
特に私が直接関わる「公教育の再生」では、地域活動に目覚めた団塊世代の活躍が期待される。塾や予備校の講師、註M教育の添削指導の経験者もいるだろう。海外経験が豊富な人や、子供たちにモノ作りの神髄を見せられる技術者もいるかもしれない。
こうした人々が文部科学省の音頭で全国に広がりつつある「学校支援地域本部」に参画し、補習や図書室運営の仕事を引き受けてくれると助かる。
一方で、好きなことを1万時間続ければ「天才」の域に達する可能性があることを示唆する本もある。大ブレーク中の勝間和代氏が訳したマルコム・グラッドウェル著『天才!成功する人々の法則』(講談社)だ。
趣味もそこまでやれば、磨かれた技能に昇華する。60歳から1日1時間でも、28年目には達成可能だ。
|