ウェンディ・コップ著 英治出版 1600円(税抜き)


 「何がしたいのかわからない…。そんな若者たちが『熱血教師』に早変わり!」。本の帯にはこう書かれている。
 著者は、全米の優秀な大学卒業生を、環境が劣悪な公立校に、2年間の臨時教員として送り込む非営利組織「ティーチ・フォー・アメリカ(TFA)」の代表。19年前、女子大生だった頃に1人で始めてから、今までに1万4000人を公立学校に派遣してきた。予算が少なく教育が行き届かない底辺校の学力向上への貢献が高く評価されている。
 TFAの“卒業生”の7割弱は、校長になったり、教育委員会で働いたりするなど、教育現場で活躍している。
 新卒の就職先としても、TFAの人気は高い。2007年に米国の「理想の就職先」ランキングでトップ10入りした。新卒採用の数もマイクロソフト、P&Gといった米国の有力企業を上回る。米グーグルや複数の投資銀行は、優秀な学生がTFAに集まることに注目して、「2年間TFAで教職を経験した後に入社できる」という共同採用を始めた。
 では、日本で「ティーチ・フォー・ジャパン」は可能なのか。
 まず教職資格を取らねばならないルールが邪魔をする。米国のように校長の裁量では採用できない。仮に非常勤の教師として採用したとしても、トップレベルの大学生が、それを望むのかが問題になる。企業の安定性が、就職人気ランキングの順位を左右する日本ではハードルが高いかもしれない。
 しかし公立中学の校長を経験した評者は、もっと多くの小中学校が、大学生を補習ボランティアとして、長期的かつ組織的に活用すべきだと考える。
 米国の社会起業家に詳しい渡邊奈々氏が巻末に寄せる言葉を引用したい。「身の回りの社会の矛盾に気がついたとき、おそらく1000人のうち999人は、その矛盾を嘆き、不満を口にしながら生きつづける。そして、たった1人が『こうすれば変えられるのではないか…』と、頭の中に描かれた解決のビジョンに向かって前進する」。
 情熱と信念を持つ1人の人間の行動が、社会を変革する大きな力になる可能性は日本でも同じように存在する。
(2009年5月25日号書評)
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