島田裕巳著 角川oneテーマ21 705円(税抜き)


 日本人であることに勇気を与えてくれる本である。
 著者は東京大学先端科学技術研究センター客員研究員の宗教学者だ。
 日本人は、今、無宗教であることの幸福を認識し、そこから次のステップを踏み出さなければならない、と主張する。私たちの宗教観は、昔から曖昧と批判されてきた。初詣でには神社に行き、葬式は仏式で挙げる。キリスト教徒でもないのにクリスマスを祝ったり、結婚式をキリスト教式で挙げたり。
 「私たちが『自分は無宗教だ』と言った時、そこには複雑な気持ちが込められている。一方には、確固たる信仰を確立できていないことへのコンプレックスがある。宗教に対して敬虔になれないということは、自分たちがまじめではない、真摯ではないことを意味するのではないか。そんな思いが、私たちにはある」
 だから、キリスト教のような一神教に負い目を感じてしまう。しかし著者は、日本人は「無宗教」に誇りを持ち、自らの宗教とせよと説く。人生の局面局面でのキリスト教や仏教そして神道の使い分けも、合理的生き方の表れなのだと。問題は信仰の対象が明確か否かではなくて、心に抱く世界観を柔らかく広げられるかどうかだ。
 日本の公教育では、宗教教育が事実上禁じられている。特定の宗派の教えを強要することを避ける趣旨だが、私自身は校長時代、宗教に対する理解は現代人に必須だと位置づけ、「よのなか」科の授業の中で、必ず宗教について生徒に考えさせてきた。「ウォルト・ディズニーファンと宗教の信者との違いは?」「ヨン様(ペ・ヨンジュン)やアユ(浜崎あゆみ)のようなカリスマと教祖の違いは?」などをディベートした。その中から、人間にとって宗教とは何かを自分自身で定義させる。中学生でも十分に議論可能だ。
 宗教という言葉は明治になってから日本に入ってきた。日本人は多神教ではない。イスラム教のあり方は神道に最も近い…。目からウロコの知識も盛りだくさん。宗教を話題にする時の最低限の教養のために薦めたい。 
(2009年4月13日号書評)
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