
ムハマド・ユヌス著
早川書房
2000円(税抜き)
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読者の中で「マイクロクレジット」「ソーシャルビジネス」「ムハマド・ユヌス」の3つの単語が1つもピンとこない方はちょっとそれはヤバイですよ、と遠慮なく申し上げようと思う。
著者はこのユヌス氏で、2006年にノーベル平和賞を受賞したバングラデシュのグラミン銀行の総裁。社会起業家の範となる人物だ。半年前に出版されたにもかかわらず、私がこの本を強く薦めたいのは、資本主義の次の可能性を示していると考えるからだ。
世は「不況、不況」と騒いでいるが、私には日本がようやく成熟社会に入り、発展途上国型の大量消費が終結するのだろうと見える。バラク・オバマ米大統領も「子供じみた消費社会から、大人としての責任の時代へ」というメッセージを打ち出している。米国も資本主義の先にあるものを模索する。
「世界は、貧しい人々は融資に値しないと信じさせられている。私はこの仮定を変えることが、貧困問題を解決するために必要な第一歩であると確信するようになった」。そこでユヌス氏は、バングラデシュで働く貧しい女性に、隣組的な連帯責任で小口融資をする銀行を創設した。これが「マイクロクレジット」である。
このネットワークは携帯電話の“また貸しビジネス”にも利用され、手工芸品の販売など、主に女性を自営業者として自立させるために貢献している。「ソーシャルビジネスは、資本主義システムの失われた断片である。その導入により、現在主流となっているビジネスの考え方の外に残された非常に大きな世界的問題に取り組む力が資本主義に備わり、そのシステムを救うかもしれない」。
著者はその好例として、グラミン銀行と世界的な食品メーカー、仏ダノンとの新しい食品開発プロジェクトを挙げる。極貧の家庭でも手が届く価格で、栄養価の高いヨーグルトを、環境に優しい生分解性の容器に入れて販売した。この事業は利益を上げている。しかし、投資家への配当はない。すべての利益は開発と再生産に回される。極めて現実的な予言の書なのである。
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