西成活裕著 新潮選書 1200円(税抜き)


 こんな学問があり得るのか!と素直に驚ける本。
 クルマに乗る人なら誰でも道路の渋滞を思い浮かべるが、ラッシュアワーの駅も人の渋滞。テーマパークの人気アトラクションも、花火見物の橋の上も渋滞。適度な人込みは賑わいを作り気持ちを高揚させるが、密集状態が度を過ぎるとコントロールが利かなくなる。
 その最悪のケースが6年前に起こった明石歩道橋事故だろう。クルマの渋滞や人の渋滞だけではない。インターネットの世界ではパケットが渋滞するとシステムの機能が低下するし、人間の体内では血管にコレステロールがたまると酸素を運ぶ赤血球が渋滞を起こす。考えてみれば日常にいくらでもあり、かつ深遠なテーマなのである。
 著者は東京大学の助教授で航空宇宙工学の専門家だが、領域を超えた渋滞学の第一人者。渋滞を解決する知恵を、アリの生態や体内でのたんぱく質合成の仕組みなどから研究している。
 エレベーターがなかなか来ずにイライラした経験も読者にはあるだろう。
 「利用客が一番多い階にエレベータは集まる傾向があるので、他の階ではかなりの待ち時間になり、結局複数台あっても分散せずにダンゴ状態になる。(中略)無人なのに勝手にエレベータが動いているのをたまに目にする。何も知らないとちょっとギョッとする光景だが、これはエレベータの『群管理』といわれており、うまく需要を予測して最適と思われる位置ににあらかじめエレベータを移動させることで、待ち時間のイライラを軽減しているのだ」
 渋滞はいつも悪者というわけではない。屋外広告は人がたくさん通ってその視線が滞留する所の方が効果が高いだろうし、「行列のできるラーメン店」は行列ができるゆえに人気が高かったりする。余談だが、お金が自分の手元に渋滞してくれればとてもうれしい。渋滞学はネットワーク理論ともつながっている。人間関係に関してちょっと又窒「指摘もあるので引用する。
 「スモールワールドとは、まさに『世界は狭い』という意味だ。我々もふだん経験することだが、初対面の人と話していると、実は共通の友人でつながっていた、ということはよくある。(中略)アメリカの物理学者ワッツは、実際にどれだけの人間を介してまったく知らない2人がつながるのかを電子メールを使って実験した」
 何と、たったの6人という結果が出たという。「このことを皆が知れば、お互いもっと友好的な気持ちで接することができるようになるのではないだろうかとも思う」と著者は結ぶ。
(2007年2月12日号書評)
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