四十万靖、渡邊朗子著 日経BP社 1300円(税抜き)


 あざといタイトルである。
 第1章には開成中学校に合格したBくんの家、麻布中学校に合格したDくんの家、桜蔭中学校に合格したGさんの家と間取り図が並ぶ。さてはビジネス書がこぞって特集する中学受験ものの連載をタイミングよくまとめた本かと勘ぐって読んでみた。「合格組の子供部屋の秘密一挙公開!」なんて、いかにもありそうではないか。
 ところが違った。すべての家族が注目すべき住居の本質が語られている本なのである。住居の総合コンサルタントと研究者による共著。200世帯に及ぶ子供部屋を調査したうえで著者は強調する。
 「有名中学受験に成功した子供たちのほとんどが、子供部屋の机で勉強をしていない」
 私自身『人生の教科書[家づくり]』(ちくま文庫)という著書があり、3人の子供の成長を見据えて家を建てた経験を持つ。
 また、中学校の「よのなか」科の授業で「子供部屋は必要か?」を保護者やハウスメーカーを交えて毎年ディベートし続けている。だから、日本の家族が過度に欧米風個室主義の影響を受けて暮らしていることから目覚めるべきポイントが2つ、しっかり表れていることに納得した。
 1つ目は本来日本の住居が持っていた「開放性」への回帰だ。隣の和室で勉強する子供とリビング空間とを屏風で隔てている家族。視線は塞げられるが音は筒抜けでお互いの気配が感じられる。子供はちゃぶ台を利用して勉強しているという。マンションに住むケースでは、ドアを閉めないルールにしている家族も登場する。
 2つ目は古民家で言えば囲炉裏の効用、「家族が集うコミュニケーション台を置き、友達を呼んだ時の卓球大会だけでなく、食事の場にも勉強机にもしている家。同じようにリビングのテーブルを勉強机としながら、本棚もベッドも持ち込んでしまった子。さながらリビングにキャンプする感覚だろう。
 逆に、2人の子供の共有部屋にちゃぶ台とテレビを持ち込んでリビング代わりにしている家族。勉強部屋に閉じ込めれば勉強する、は誤りだ。コミュニケーションの復興は、教育界最大のテーマでもある。
 もっとも、例示されている11のケースを読めば、中学受験にはやはり母親の影響力が大きいということを思い知らされる。「頭のよい子が育つ家」というよりは、もっと広い意味で日本人の住生活の誤解を解く1冊。
 「子が育つ家」ならば、親もまた育つ。
(2006年9月25日号書評)
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