小川和久著 (坂本衛=聞き手) アスコム 1600円(税抜き)


 日本の自衛力、戦闘能力はいったいどれほどのものなのか?
 ジャーナリストの坂本衛氏が「自衛隊の実力は?」「日本国内でもテロは起きるか?」「北朝鮮の特殊部隊の実力は?」という素朴な質問を、事実とデータに基づいた解説で定評のある軍事アナリスト、小川和久氏にインタビューする形でまとめた本。
 小川氏の経歴も面白い。中学卒業後、陸上自衛隊に入隊。同航空学校修了後、同志社大学神学部に入学し、中退後、軍事アナリストに。「日本には十分な『戦争力』が備わっている。(中略)日本がそれを行使できていないのは、日本国民が自分たちの力に気づいていない結果にほかならない。その意味で、本書は『戦わずして勝つ』ための極意について、読者とともに考えようという試みでもある」と冒頭にある。
 なぜ、戦わずして勝たなければならないか?
 自衛隊は、水泳だけが世界トップレベルで、あとはパッとしないトライアスロン選手のようなアンバランスな存在で、そもそも他国を侵略できる構造になっていないという。ちなみに、ここで水泳に比喩されるほど世界最高水準なのは、海上自衛隊の対潜水艦戦能力と掃海能力。両腕だけは筋トレで徹底的に鍛え上げてあるのに、下半身は全く手つかずで細く弱々しい姿とも。
 「侵略できる構造になっていない」事実を著者は次のように解説する。仮に朝鮮半島を攻めるとすれば、50万〜100万の陸軍を敵前上陸させなければならない。そのためには制空権を取る必要があるから、3000機程度の戦闘機がいる。数だけ揃えてもダメで、システムを機能させるためには数十機のAWACS(空中警戒管制機)と空中給油機100機程度が必要だが、日本にはAWACSが4機、給油機が配備予定を含めて4機。だから「本格的な海外派兵をしたり、戦力を投入して外国を占領できる構造を持つ軍事力ではありません」と結論づける。こうしたデータによる検証が著者の真骨頂だ。
 米国にとっての日本の重要性についても歯切れが良い。米軍が日本に置いている燃料は、米東海岸に次いで第2位の備蓄量の神奈川・鶴見をはじめ、第3位の長崎・佐世保、そして青森・八戸の3カ所で1107万バレル。これは第7艦隊を半年間戦闘行動させることができる量であり、仮にこれを海上自衛隊が使うと優に2年間は活動できる。それほど重要なのだ。
 右も左もない。ノンポリを決め込むビジネスマンが憲法や自衛隊を感情論でなく語るための教養を磨く1冊。
(2006年5月8日号書評)
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