
戸塚滝登著
小学館
1500円(税抜き)
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強烈な警告だ。「10才の誕生日を過ぎるまではインターネットは与えないで」「パソコンより五感と身体感覚を優先させて」「人工(デジタル)より、自然(アナログ)を優先させて」。これが結論。小学生以下の子や孫に、安易にゲーム機やパソコン、果てはケータイ(携帯電話)を与えている読者には聞き捨てならないことだろう。
しかも、著者は長い間、日本のコンピューター教育の第一人者と目されてきた人物で、パソコンの生みの親の1人、アラン・ケイ氏とも親交がある。評者も、富山県の小学校で行われた公開授業を見学に行った。映画「E.T.」の主人公が自転車に乗って空を飛ぶクライマックスシーンで、背景の月はホンモノか作りものかをネットも使いながら議論する授業、校舎の改築でやむなく切り倒されたメタセコイアの木の年輪から音を拾ってパソコンでメロディーを紡ぐ授業…デジタル技術を使った「総合学習」のお手本が、著者の手によりいくつも創作された。
その著者の警告なのである。
きっかけは、2004年6月に長崎県佐世保市で起きた小6女児の同級生殺害事件。明らかにネットが1つのきっかけになった事件だ。被害者の父親が涙ながらに語った言葉、「最後の一線を越えてしまう子と、踏みとどまる子とどう違うのか」が著者を突き動かし、いまだに世間が曖昧にしているデジタル技術やネット利用の子供への影響を明らかにする本書がまとめられた。
「この『脳』につながれた『五感』という、宇宙一精密な神経ネットワークを駆使してコミュニケーションするようにもともとつくられている人間は、インターネットという、逆に五感を極度に削ぎ落とされた粗悪なコミュニケーション状況に入った瞬間、ストレスや不満を感じ、怒りや恐れ、凶暴さや悪意を抱いたりなど、負の感情を誘発する状況に陥りやすくなるのです」
例証で登場するヘレン・ケラーや狼っ子カマラの物語も興味深い。私自身、小学生から高校生までの3人の子の父でもあるから、ゲームやケータイの影響には敏感だ。ゲーム機は買い与えなかったし(友達の家で遊んだり、自分の小遣いで中古機を買うことまでは禁じられなかったが)、長男には中学卒業までケータイを持たせなかった。
それでも世の中はネットの普及とともにある。さて、どうするか?著者の勧めに従って、10歳つまり小学校5年生になるまでは、できるだけアナログライフを重視する、そんな現実的な対処法しかないだろう。
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