
日本経済新聞社編
日本経済新聞社
1500円(税抜き)
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何とも、まとまりのない本である。しかし、資料性は高い。23人の新聞記者が広範な取材の末に紡ぎ出したものだからだ。
この本では「伝統的な家族」の崩壊があらゆる魔ゥら検証される。もはやクルマもケータイもシャンプーも、2人の子を持つ“標準世帯”をイメージして商品を投入する時代ではなくなった。“世帯”や“家族”という言葉で一括りにされていた人々が、個人としての出番を告げられ始めた。
個人として振る舞うことが社会的にも経済的にも許されるのなら、晩婚化は自然な流れだ。少子化も避けられない。いったん家族にしてみたところで、その絆は徐々に緩んでいく。長年、子供たちの描く作文をウオッチしている研究者は本書で「20年前、子供に家族の中心は何かと問いかけると、『父』『母』を挙げる答えが圧倒的に多かった。しかし、その後『テレビ』や『テーブル』に変わり、現在の主流は『自分』『ない』に移ってきた」と語る。
一方で、ペットも家族の一員に。今や15歳未満の子供の数より多いという。神社はペット専用のお守りを売り、霊園も作られる。
諸外国でも家族の再生に大わらわだ。取材班が集めた例では…イタリアのお爺ちゃんが自分を引き取ってくれる他人の家族を新聞広告で募集した…子供が生まれた家族に1万ユーロ(約140万円)渡す村がある…ドイツでは子供のいない人の介護保険料を重くした…。
起こりつつある本質的な変化は次の2つの文章に端的に表れる。
「国立社会保障・人口問題研究所の予測によると、1960年に38%を占めていた『夫婦と子供』から成る標準的な世帯は2025年には24%まで減る。代わって台頭するのが『シングル』世帯。1960年の16%から2000年時点で28%と『夫婦と子供』に肉薄し、2025年には3世帯に1世帯を占める最大勢力に躍り出る。その多くは65歳以上が占める見通しだ」「真剣に『ひとり』を見据えるのは、お年寄りばかりではない。晩婚化や離婚の増加が進展し、都市部の40代では独身がほぼ4人に1人を占める」
これが、もう向かっている未来、「成熟社会」の実相なのである。さらに読者の耳に痛い予言も。
「2007年には新たに公的年金の夫婦間分割制度がスタートする。別れる夫婦も一定の条件で、厚生年金を分け合えるようになる。団塊世代のリタイアもあり、大量離婚時代の予測まで飛び出す」
企画や調査、商品開発を担う仕事人には必見の書。ところで、あなた自身は、いったい誰と生きますか?
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