
茂木健一郎著
PHP研究所
1397円(税抜き)
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これが動きを止めたら「死」であるとされている。にもかかわらず、普段、私たちはそれほど意識することがない。無論、この「私」という意識も、新しいものを生み出す創造性も、この器官がつかさどる。21世紀中には、すべての創造を支配する脳の機能が解明されて、私たちはかつて「神」と呼ばれていたものに近づくのだろうか。
養老孟司氏はこの本の帯にこう記す。「創造性は現代の中心課題であるのに、なにか暗黙の前提になっていて、誰も考えようとはしなかったが、茂木さんは脳の側から本気でその第一歩を踏み出した」。
著者はソニーコンピュータサイエンス研究所の研究者であり、東京芸術大学の非常勤講師。「創造性の本質には、他者とのコミュニケーションが深く関わっている。(中略)『独創性は個人にしか宿らない』と断言したアインシュタインにおいてさえ、妻や友人たちと議論を積み重ねることが、その創造のプロセスに不可欠だったのだ」と述べ、創造は、個人の内部に起こると考えるより、コミュニケーションを通じて「他者との間に宿る」と考えた方がよいと指摘する。
私たちが表現する行為を行う時、その表現を受けた他者からの反応が再び脳にフィードバックされる。著者は「私たちの脳のアーキテクチャーは、どうやら、外界へいったん出力して、それを感覚として入力することなしでは情報のループが閉じないようにできている」と述べる。
ビジネスで新しい動きを作ろうとする時、会議の場だけではなくメーリングリストや掲示板を介して議論を深めるのが有効であることには、もはや疑いの余地はないだろう。自分の意見を受け止めた相手の考えが「>」マークのついた自分の発言の引用とともに返ってきた時、「ああ、自分はこういう発言をしたんだな」という素直な思いとともに「自分の発言にはこういう意味もあったのか!」と改めて気づくこともある。
この積み重ねが脳を活性化する。創造性の高い組織作りを目指す会社には、構成員個人に対する、取ってつけたような創造型リーダーシップ研修より、他者との日常的な対話技術を重視したコミュニケーション研修をやった方が有効だということにも気づかせてくれる。私の古巣であるリクルートも、コミュニケーションの活性化を重視する会社だった。
「脳」という文字の偏はカラダの部位を表す肉月。つくりは、髪の毛の生えた頭部を指すという。そう言われれば、どこか芸術的な顔に見えないこともない。
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