ダン・ブラウン著 角川書店 上下巻とも 1800円(税抜き)


 一気に読めてしまう上下巻。次から次へと事件が展開するから、あっという間に、キリスト教の知られざる歴史を旅することができる。
 ルーブル美術館の館長が館内で死体となって発見された。しかも、あのレオナルド・ダ・ヴィンチの最も有名な素描を模した形で横たわっており、周囲には複雑怪奇なダイイングメッセージ。駆けつけた孫娘がその謎に迫るのだが、事件の背後には教皇派のキリスト教会とシオン修道会の血みどろの対立が…。
 著者は英語教師から作家に転じた人物で、昨年3月に本書を発行後、57週連続ベストテン入りと大ブレーク。『ハリー・ポッター』のJ.K.ローリング氏の当たり方に近いかもしれないが、この本は荒唐無稽の物語ではない。
 本の初めにはこうある。「この小説における芸術作品、建築物、文書、秘密儀式に関する記述は、すべて事実に基づいている」。
 例えば本書に頻出する“オプス・デイ”というカトリックの一派が“肉の苦行”という危険な修行をしていることで“キリストのカルト”と呼ばれている記述が出てくるが、実際ウェブサイト(http://www.odan.org/index.htm)を開いてみると、オプス・デイ監視ネットワークという非営利団体の情報が現れる。
 だから次のような記述についても、本当のことかもしれないと想像する楽しみがわき上がってくる。
 「〈モナ・リザ〉は男とも女ともつかない顔をしているうえに、名前も男女の神を合わせて並べ替えたものです。それこそがダ・ヴィンチのささやかな秘密であり、〈モナ・リザ〉がわけ知り顔の微笑を浮かべている理由なんですよ」「マグダラのマリアは娼婦などではない。その不幸な誤解は、初期の教その危険な秘密を(中略)闇に葬るためだ」「教会は明確な目的を持って、セックスを悪しきものと断じ、罪深く忌まわしい行為へと貶めたんだ」
 こうして、ついには〈最後の晩餐〉でイエスの右側(画面左側)にいる人物の謎が解き明かされる…おっと、これは言わないでおく。
 日本でも、一見平和そうに見える江戸の“士農工商”社会の中で身分を剥奪された人々の歴史を知るには、『カムイ伝』(白土三平著)を読むのが早い。あえて、ビジネスマンの教養として「キリスト教」の一側面を早読みする1冊と紹介しておこう。
 複雑怪奇な知識が、このような謎解きによって教えられるのなら、学校のあり方も変わるかもしれない。
(2004年8月9日号書評)
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