
山岡淳一郎著
草思社
1800円(税抜き)
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かつてこのページで評した『犬と鬼』(講談社)には、コンクリートを使用した海岸や河川の治水事業が、いかに日本の国土と風景を崩してしまったかが見事に描かれていた。本書は、そのコンクリートで建てた都市部のマンションのメンテナンス上の盲点を鋭く指摘する。帯には「永住するつもりで購入したのにローン完済時には住めなくなる!?」という強烈なメッセージが躍る。
著者は『外断熱は日本のマンションをどこまで変えるか』(日本実業出版社)の著書もあるノンフィクション作家。日本の住宅政策のデタラメさを、建て替え現場への取材で浮き彫りにする。どうデタラメなのかは、本文のデータを見れば明らかだろう。「国土交通省の2002年に公表したマンション建て替え事例では、『老朽化』で再建されたマンションの平均築後年数は『37年』少々となっている。ほぼ30年周期で破壊と新築が行われてきた。これに対して欧米の住宅サイクル年数は、英国『141年』、米国『103年』、フランス『86年』、ドイツ『79年』」。
なぜ、使用期間にこんなに大きな差が出るのか。「石の文化」と「木と紙の文化」の違いで説明しようとする向きもあるが、日本の「37年」とは、木造ではなく鉄筋コンクリートの集合住宅のデータなのである。これでは、ストックとしての体を成しているとは言えない。現在、全国で約430万戸の分譲マンションに1000万人以上の人々が暮らしているという。東京では全世帯の2割以上だ。
著者の警告を一言で言えば、ローン返済が終わる30年後には建物の耐用年数がきているのに建て替えられない可能性がありますよ、ということ。
千葉市稲毛海岸3丁目団地の例を引きながら、長期的に地価が下がる時代には、たとえ容積率の緩和があっても住民の新たな負担なしで建て替えをすることがいかに困難かが描かれる。
「築後30年を過ぎ、深刻な老朽化に直面する27万戸のマンションが、時の波間に『漂流』している。建築後の法改正や都市計画の変更で、建て替えれば逆に規模を縮小しなければならない『既存不適格』物件は多い。(中略)高齢化した住人に、建て替えへの経済的余力はない。もしも強引に建て替えが行われれば、参加できない高齢者は『住宅難民』として都市の底辺に散ってゆく」
「あなたのマンションは大丈夫?」という警告だけではない。躯体をそのままにして改築する老朽建築の蘇生法も示されるから、一筋の光明も。
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