
江副浩正著
朝日新聞社
1800円(税抜き)
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惜しい! 中途半端な本になってしまった。
著者については説明の必要もないだろう。リクルートという会社を1代で起こし、1兆円グループにまで成長させた後、リクルート事件で去った希代の経営者である。この本はその回顧録なのだが、リクルート事件についてはまだ書くべきではないという判断から割愛されている。
評者自身、かつてリクルートの社員だったから、第3章に描かれている1992年のダイエーグループへの株式譲渡決定に至る場魔ナは、ところどころ納得できない部分もある。にもかかわらず、この本には、インサイダーであった私でも初めて聞いたストーリーがいくつも登場する。
1つは、後年、経営者としてのアグレッシブさが裏目に出て、本業とは異なる不動産業とノンバンク業の膨張につながっていく動機である。僭越ながら、著者の生い立ちが強く関係しているようである。「はじめに」で、「戦争と貧困を知らない若い世代に、私が育った時代を伝えたい」との思いで書いたと、著者自身も綴っている。
2つ目は、著者が、情報誌事業を営むリクルートグループから、苦境に陥っていた不動産業とノンバンク業を分離することを意図していたという記述である。ここは関係者の思惑の入り乱れる部分だから、にわかには信じがたいが、それでも今から10年前に分離の決断が成し遂げられていたら、リクルートはどうなったであろうと考えてしまう。経営に「もしも」はないとはいえ、1000億円ずつ10年間銀行に返済した総額1兆円の現金が投資可能なマネーだったらと。
3つ目に、経営的に重要な局魔ナ、いつも冴えた助言をしていたのは、名コンビだったデザイナーの亀倉雄策氏(故人)だったという事実である。あとがきでも著者は、本書を氏に捧げたいとしている。
M&A(企業の合併・買収)ブームの中で、現代の企業は、急に第三者に資本参加されるリスクをいつも抱えている。そんな時、組織の上と下でどんな物語が進行するのか。
読者がもし両方の目から見た「ダイエーとリクルートの物語」を同時進行ドラマのように楽しみたいなら、はなはだ手前ミソではあるが拙著『リクルートという奇跡』(文芸春秋)とこの本を相前後して読んでみることをお勧めする。併せて松永真理著『iモード以前』(岩波書店)、高塚猛著『ならば私が黒字にしよう』(ダイヤモンド社)、くらたまなぶ著『「創刊男」の仕事術』(日本経済新聞社)を読破すれば、超活性集団リクルートの遺伝子の秘密が解けるかもしれない。
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