
池田晶子著
トランスビュー
1200円(税抜き)
 |

私は「14歳」というのが人生の大事な転機だということを疑わない。“子供”の終わりであり、“大人”の始まり。昔でいえば元服して結婚し、一人前に戦場に臨んだ。15歳を過ぎれば、現代でも労働基準法で就労を許され、民法では氏の変更や遺言ができ、臓器のドナーになる権利が与えられている。少年法でも、ご存じの通り、14歳から刑罰が適用されることになった。
この本は、中高生向けの哲学の教科書の体裁を取りつつ、「人は14歳以後、一度は考えておかなければならないことがある」と帯に警告している通り、ついうっかり大事なことを考えないでここまできてしまった大人たちに対して、思考回路を再起動させるカギになる可能性がある。
高校時代に、つまらない教師から「倫理・社会」を教わってソクラテスとプラトンとアリストテレスがごっちゃになっている人も、大学時代、哲学の試験に備えてデカルトとカントとヘーゲルの思想の違いを丸暗記するのに辟易した人も、もう、そうした偉人の言説に怯えることはない。哲学本にありがちな大量の引用を排し、すべて、読者にとって身近なことから考え始める機会が与えられているからだ。
「どうだろう、生きているということは素晴らしいと思っているだろうか。それとも、つまらないと思っているだろうか。あるいは、どちらなんだかよくわからない、なんとなく、これからどうなるのかなと思っている、多くはそんなところだろうか」というような軽妙な語り口。イチローや宇多田ヒカルを例に挙げながら、「自分とは誰か」「死をどう考えるか」「他人とは何か」「恋愛と性」「仕事と生活」「人生の意味」「存在の謎」と話を進める。
著者の主張は明快だ。繰り返し次のように述べて「精神」の在り方の重要性を指摘する。
「精神が豊かであるということだけが、人生が豊かであるということの意味だからだ」「精神であるというまさにそのことにおいて、自分とは人類、人類の歴史そのものじゃないだろうか」「人が自分を精神であると、はっきり自覚するとき、そこには『内』も『外』もない壮大な眺めが開けることになるんだ」
中学生が「すべては精神だ」ということに納得してくれるかどうかはともかくとして、まず疑い、自分自身で考えることから始めようという趣旨には十分賛同できる。
さて、ビジネスマンならまず「不況だから売れない」を疑ってみる必要がありそうだ。個人はお金を持っている。今売れないのは、精神的な充足を得られない商品なのではないか、と。
|