NHK 「ジャパンインパクト」 プロジェクト編 NHK出版 1500円(税抜き)


 地味な本である。NHKの番組で放送した内容を、後から書籍にしたものだが、この本には「まだまだ日本は捨てたものではない!」という元気のもとが詰まっている。
 例えば、紙の話だ。オートマチック車のクラッチ板に、日本の伝統工芸の1つである和紙の技術が生かされていることを知っているビジネスマンはどれほどいるだろうか。紙漉きの技術で培われた「機能紙」と呼ばれる摩擦材が、日本の自動車メーカーだけでなく、メルセデス・ベンツなど海外の高級車にも採用されている。ギアを切り替える時のショックを少なくし、しかも確実に動力を伝えられるという、素材の価値が認められたのだ。
 ほかにも、医療や電子部品など、様々な分野で日本の「紙漉き技術」の可能性が示されている。ガス滅菌紙という機能紙は、病院でメスや注射器をガスで滅菌した状態のまま保存するために使われる。
 また、ステンレスを繊維化してカーボン繊維の間に入れて漉いた紙は、電子機器の心臓部の保護材に使われている。電磁波障害を防ぐための分厚い鉄板の代わりだから、ノートパソコンなどの軽量化に多大な貢献をしているわけだ。
 洋紙は数十年から数百年生きてきた大木を粉砕し、パルプ化して原料とする。それに対し、和紙は、成長の速いコウゾ、ミツマタなどの植物を原料とする。植物の株を残すことで、繰り返し収穫できる資源循環型の生産方式だという指摘もされている。
 マルコ・ポーロが『東方見聞録』で描いた黄金の国ジパングに憧れて、コロンブスが西回り航路に挑戦してアメリカ大陸を発見したのは有名な話だ。では、その黄金の国の「金箔技術」がプリント基板に使用される電解銅箔に生きているという話はどうだろう。
 プリント基板は、樹脂の板の上に銅箔を張り、不要な部分を溶かして配線を描く。300年以上前の江戸時代に創業し、屏風や仏壇に使う金箔を作ってきたメーカーが、その技術を支えている。
 携帯電話がポケットに入る大きさに進化したのは、空中を飛び交う無数の信号の中から特定の周波数の電波だけを選び取るセラミックフィルターが小型化したからだが、これには伝統的な「陶磁器作りの技術」が生きている。今では、最初に移動体通信用に開発されたものの2万分の1という軽さになっているそうだ。
 挿入されている写真がビデオ映像からの転用なのでボケているのがちょっと惜しい。映像の記録を伝統的な紙にも残すなら、写真撮影も同時にしておいてもらいたかった。
(2003年4月21日号書評)
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