
陰山英男著
文芸春秋
1238円(税抜き)
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兵庫県朝来(あさご)町(人口約7000人)にある、のどかな田舎の小学校、町立山口小学校陰山学級の奇跡については、文部科学省による学校改革の失敗を予言する論者にしばしば引用されてきたので、もはやご存じの方もいるかもしれない。
本書は、陰山先生が担任したクラスの子供たちがなぜ驚異的な比率で難関校に合格しているのか、実際の学力テストでも全国平均を100として“数と計算”で136、“言語能力”で135という数値を示すのか、その謎を普通のお父さんにも腑に落ちるよう解説してくれる。
第1章の「学校でできること」には、有名な100マス計算のテクニックや、日本国憲法の前文とか平家物語や源氏物語を暗唱できるまで音読する陰山メソッドが次々紹介される。「文章題より単純な計算練習の方が脳を活性化させる」とか「低学力は本人の思い込みによる」という、これまでの常識からすればアレッと思う記述がある。
5月初旬のゴールデンウイーク明けまでにその学年の漢字をすべて覚えさせてしまい、あとは復習を繰り返して完全マスターを図るという具体的な授業方法も示される。
注目したいのは、むしろ第2章に丁寧に描かれている「家庭でできること」の数々だ。学校教育については、誰しも甘酸っぱい思い出と苦い経験の双方があり、ともすると1億総評論家と化してしまいがちなのだが、自分の家の中でどれだけのことができているか、この本はよい鏡になるかもしれない。
特に著者が「テレビを1日2時間以上見る子に高学力の子はいない」と断言している部分は、子供のテレビ視聴時間が平均で2時間を超えている日本の家庭の現実からすれば注目に値するだろう。
単純な計算である。2002年度からの授業時間は小学校標準で年945時間、中学校は980時間だ。小学校は45分、中学校は50分の授業だから実授業時間は小学校で708時間、中学校で816時間。
一方1日2時間テレビを見ている子供の年間総視聴時間は730時間に上るから、既に小学校の授業時間を上回っていることになる。もし、土日にさらに1時間テレビゲームをするようなら、ディスプレーを見ている総時間が830時間となるから、中学校の授業時間も凌駕する。
時間数で“授業”は“テレビ”に負けているのだ。
私が、テレビを居間リビングからどけるか、せめて食事中につけっ放しにしないことからしか教育改革は始まらない、と考える根拠がここにある。
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