よのなかフォーラム
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タイトル 短編小説『ヒーロー』
投稿日: 2020/08/07(Fri) 00:23
投稿者USA

短編小説『ヒーロー』

「何かお困りですか?」
それはある日の昼下がりの交番勤務での出来事だった。今となってはその来訪者の顔も思い出せない。中性的であった。男なのか女なのかも定かではない。服装も男性ものなのか女性ものなのかもはっきりと覚えていない。
来訪者はいきなりこう切り出した。
「お巡りさん。私はこれから先、多くの人を殺すでしょう。でもその方法は完璧なので、決して私を犯人として捕まえることはできません。つまりあなたが今私を逮捕するか殺さなせれば、多くの人が命を失うことになるでしょう」
私は戸惑った。交番には時々変わった人が訪ねてくるが、この来訪者はどうなのだろうか。いきなり語られた言葉から察するにおよそまともとは言い難い。私はどう切り返したらいいものか困ってしまった。
「あのね、そうは言われても何もしていないあなたをいきなり逮捕なんて出来るわけないでしょう。ましてや殺せるはずがない。あまりお巡りさんをからかってはいけないよ」
来訪者は表情ひとつ変えずに言葉を返す。
「私は至って本気ですよ。お巡りさん、あなたはいずれにしても殺人を犯すのです。私をここで見逃せば私は多くの方の命を奪います。あなたはそのことを今ここで聞いてしまった。聞いてしまった以上、私を生かすことはイコールあなたは私の殺人の幇助をすることになるのです。しかし今私をここで殺せば、それはもちろん殺人になりますが、それと同時にあなたは多くの人々の命を救うヒーローになれる。
どちらを選んでもあなたは殺人者となるのです。であるならばヒーローとなる方を選ぶのがお巡りさんとしての筋というものでしょう」
私は身震いした。まるでこめかみに銃を突きつけられているような錯覚に陥った。それと同時に来訪者の表情は無表情を通り越して菩薩のようであった。その表情は「何を躊躇うことがあるのですか。お巡りさんが人を救うのは当たり前のことでしょう」と諭してくるかのようであった。

10分後
「交番で発砲事件が起こりました。なんと交番勤務の警察が何も危害を加えていない市民に向けて発砲し殺害した模様です。前代未聞の殺人事件です」


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