よのなかフォーラム
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タイトル 短編小説『イマジネーション』
投稿日: 2020/06/18(Thu) 12:24
投稿者USA

時任隆はサッカー日本代表のユースである「Uー15」の育成を任されている。隆の仕事は多岐にわたり、技術指導はもちろんのこと日本中から将来有望な若者を発掘することも含まれていた。
実際に隆が育てた子が成長し日本代表として活躍している選手も数多くいる。
しかし隆は焦っていた。
「このままではワールドカップでは優勝できない」
今のままではダメだと本能で悟ってしまう自分がいた。
子供たちは本当に一生懸命だ。練習もとても熱心だし、とことんまで自分を追い込んでもいる。日本中からの選りすぐりの若者が切磋琢磨しここまで鍛錬に鍛錬を重ねているにもかかわらずワールドカップで優勝できない。
なぜなのか。
そのなぜを解明することが先決だ。若者たちに厳しい練習ばかりを課すのはあまりに酷な気がして仕方がない。
隆は今までワールドカップを優勝した国を研究することにした。
イタリア、ブラジル、ドイツ、フランス、イングランド、ウルグアイ、アルゼンチン、スペイン。
これらの国々にあって日本にないもの。それはなんだ。何が日本に足りない?
サッカーとはなんなのか?本質的には点を取るスポーツ。点を取らないことには決して勝ちはない。
では点を取るにはどうしたらよいのか。
点を取るとはゴールラインを割ることだ。
ゴールラインを割るためにはディフェンダーを潜り抜けキーパーの隙間を狙うこと。
ここが問題だ。日本人選手は間違いなく技術は高い。ミドルレンジから力強いシュートを放てる選手も増えてきた。
しかしコンマ何秒かの躊躇いのうちに、ディフェンダーやキーパーにコースを読まれて結果シュートを拒まれてしまう。そのコンマ何秒をサッカー強豪国の選手より速く反応するためにはどうしたらよいのか?
身体的なものは当然あるだろう。特にブラジル人などは独特のリズムがあり日本人には到底真似できない。しかし身体的な差異だけが原因ではないような気がする。
コンマ何秒を埋めるために身体的なもの以外に何があるだろうか?
身体的以外なもの?

隆の頭の中で靄が一気に晴れたような気がした。暗中模索の中、一筋の光が垣間見えた。
コンマ何秒を埋めるには肉体を限界まで追い込むことはもちろんだが、それ以外にできることがあるとすればそれは「未来を読むチカラ」だ。
この先何が起きるのか。それを予知しあらかじめ準備しておく。コンマ何秒先の予知ができれば相手に先立って行動できる。
では予知するためにはどうすればよいのか。
それは想像力を膨らませるより他にない。
もしかしたら日本人に最も欠けているのはこの想像力ではなかろうか。
それはもしかしたら教育のせいかもしれない。もしかしたら核家族化が進み他者との関わり合いが希薄になったからかもしれない。もしかしたら先行きの見えない現代に置いて未来に希望が持てないことに起因しているのかもしれない。
理由は数え上げれば切りがない。
しかし隆は想像力の欠如こそが日本サッカー界、引いては今の日本に欠けているように思えて仕方がなかった。

隆は8歳と9歳のクラブユースの子供たちに絵を描いてもらうことにした。まずは「木を描いてみて」とお願いした。子供たちは大小様々、いろとりどりの木を描く。次に「森を描いてみて」とお願いしてみる。これも木を何本か描くなど皆それぞれの森を描いてくれた。ここでは絵がうまい下手は関係ない。とにかく自分なりの「森」をイメージして描けるかどうかが大事なのだ。
次に15歳のユースの子たちに同じことをお願いした。みんな「木」までは描ける。しかし「森」となると途端に手が止まる。子供たちからは「森って言われてもなぁ」とか「絵を書けって言われてもなぁ、なんだか恥ずいよな」とかそんな声が聞こえてくる。
これは隆にとって大きな発見だった。
子供たちは歳を重ねるにつれ、周りと同調することに慣れてしまい、いつしかその個性を失う。指導者はこの点にもっと真剣に向き合わなくてはならない。技術や体力を身につけさせるために当然尽力はする。しかしその尽力が子供たちの個性、ひいては想像力を潰してはいまいか。
技術力と想像力の融合。これこそが隆の追い求める理想となった。
隆はJFAの理事に直談判し、Uー15コーチからは外してもらい、10歳未満の子供たちの育成担当にしてもらった。
隆は全国のサッカークラブやクラブユースを訪ね周り、有望な子供を対象に年2回の合宿を計画した。場所は富山。アルプス山脈を望む実に風光明媚な場所を選んだ。
隆の目的はただ一つ。才能豊かな子供たちに素晴らしい自然を体感してもらい同じ景色を共有させることで、子供たちの脳の中に想像力のリンクを張り巡らせることだった。
広大な自然は必ずや子供たちの想像力を膨らませるだろう。想像力が膨らめば、サッカーフィールドを俯瞰して想像することができるようになる。その俯瞰図をピッチにいるものが同時にイメージできれば、ゴールへのプロセスは自ずと見えてくるはずだ。
だからこそ、隆はこの合宿において厳しい練習の傍ら、川遊びや山登りなど遊びの要素をふんだんに盛り込んだ。そして合宿の最後には必ず「森」を描いてもらうことにした。

20年後 ワールドカップ決勝
隆はJFAの理事としてスタンドから自分のかつての教え子たちを見守った。
さぁみんな、思う存分想像し、そして自分たちのサッカーを創造し、世界中を楽しませてくれ!!


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