よのなかフォーラム
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タイトル 短編小説『生きる』
投稿日: 2020/04/16(Thu) 06:49
投稿者USA

「なぁ、はっちゃん。死ぬってどんな感じや。やっぱ痛いんか?」
俺は葬儀会場を後にし、缶コーヒーを飲みながらひとりごちた。
「さすがに逝くの早過ぎやろ。俺らまだ39歳やで」
亡くなったはっちゃんも俺もまだ39歳。
「はっちゃんの奥さんと遺影の前で少し話させてもらったわ。その話してる後ろでな、元気に遊んでる子供がおったんやわ。奥さんに聞いたら私らの子供ですって言うやんか。5歳と3歳、そして9か月の3人姉妹やねんてな。どないやねん、はっちゃん。こんな小さい子供ら残して一体何考えてんねん」
子供たちが無邪気に遊んでいる姿を優しそうに眺めているはっちゃんの遺影を見た瞬間、俺は溢れる涙を止められなかった。
「何がおかしいねん。なんで笑ってるんや?そんなに子供たちが楽しそうに遊んでる姿が嬉しいんか?そしたらそんなところにおらんと、さっさとこっち来て一緒に遊ばんかいな」
そんな俺の気持ちなどお構いになしにはっちゃんはずっと棺の後ろから微笑みかけるばかりだった。

帰りの電車の中で俺は小説を開いた。題名は「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発」。大震災で多くの方々の命が無慈悲にも奪われた。その一方で原子炉で命をかけた男たちがいた。彼らのおかげでどれだけの命が救われたのだろうか。
なぁ、はっちゃん。一体どれくらいの人が自分の死期を予期して死んでいくんやろうな。死期なんてもんは誰にもわからんよな。はっちゃんもまさか自分が癌で逝くなんて思ってもみなかったやろ?
俺はいつどこでどんな風にして死ぬんかな?そんなもんわからんわな。明日急に死ぬかもしらんし、明後日事故に遭うかもしらんし、50年後に寿命を全うできるのかもしらん。そんなわからんもんをウダウダ悩んでても仕方ないんやろか?
そしたらさ、はっちゃん、どうやったら満足に死ねるんかな?死期が選べないんやったらほんの少しでもいいから納得した死に方を選ばれへんもんやろか。でも死に方なんて自分で選べるもんでもないわな。そしたらどうしたらええんかな?満足に生きられたら死ぬ時は満足して死ねるんやろか?
満足に生きるためにはどうしたらええんやろな?なんかようわからんくなってきたわ。
でも俺にできることは毎日一生懸命生きることくらいしかなさそうやわ。
ありがとうな、はっちゃん。ゆっくり休んでください。


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