よのなかフォーラム
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タイトル 短編小説『現実』
投稿日: 2019/01/08(Tue) 00:32
投稿者USA

>  わからないことをわかりたくて、書くんだ、と。

小説『現実』

今の世の中、なんだって簡単に手に入る。私はその手段を手にしたのだから。誰だってそうじゃないの?難しいことなんて何もないよね?でも、今、私の横で苦しんでるのは、、誰?

私は昔から利口だった。親や先生に小言を言われるくらいなら、そう言われる前に勉強した。だってそれだけしてりゃ親なんて嬉しそうにしてるんだもん。でもまぁ運動は苦手かな。だってあんなの馬鹿みたいじゃない。大したこともない大人が先生だからって偉そうに指示してくるんでしょ。考えらんない。何の疑問も抱かず先生に従うんでしょ。一生やってろつーの、バーカ。

結婚?したよ。それなりに私、可愛いし。出会い系サイトでチョイチョイとやれば男なんてすぐに引っかかるわよ。旦那もまぁ、楽勝ね。なんだって私のいうことを聞くもの。でもなんかそれもしばらくすると刺激がなくなったし、だからその隙間を埋めるようにあちこち飛んだわ。「そこ」は刺激的よ。自分の思い通りの反応があるからね。第一、ウザくなったら「そこ」から出て違う「そこ」に行けばいいんだから。とにかく「そこ」はいつでも繋がれる世界だから、旦那をゲットしたみたいに、いつでもすぐに友達もゲットできるもの。世の中が寝静まるころに「そこ」のみんなも忙しなくなるのよね。「そこ」ではたくさんお金を積むとまるでみんな親友のように近寄ってきてくれる。自分がレアで特別な存在になったような気分。

あれ、そういえば最近旦那を見てないな。ま、いっか。それより最近課金出来なくなってきたな。節約してまた課金してもっとレアにならないと。みんな私のこと頼りにしてるんだから。

ぎゃあぎゃあ泣くなよ。うるさいな。そこにミルクあんだろ、飲んどけよ。

あれ、最近泣かなくなったな。何も与えてないからかな。でもお金ないし、仕方ないじゃん。

すっかりお金もなくなってまるで誰も相手をしてくれなくなった。

私は今どこにいるの?
みんなどこにいったのよ。前までチヤホヤしてくれたじゃない。そんなにイジワルするんじゃもう相手にしてあげないよ。
ところでここはどこ?
私は1人なの?

ん?横にいるのは、、誰?
私?じゃなくて、、、愛子?

愛子、愛子。
「愛子」と明確に頭の中で認識した時、私は呼吸ができなくなり息を吸おうとすればするほど体が硬直した。なんとか息を吐き出すと今度は激しい嘔吐が襲った。しかし何日もまともに食べていなかったせいか、胃から吐き出すものはなく苦々しい胃液だけが涎ととに唇から爛れ落ちる。
苦しい、苦しい。
横にいるあなたも苦しいの?
愛子。あなたはそうやってどれくらい苦しんでたの?ごめん、ごめんなさい。愛子。今ようやくあなたを見て「そこ」から抜け出せたわ。苦しいね。でもここが「現実」なのね。お母さん、今までどこかに行ってたみたい。もういつからかわからない。でも「苦しい」とわかる。そしてあなたが私の子「愛子」とわかる。ようやく本当の「現実」に戻ってきた。

気がついたら私は病院の一室にいた。
愛子の衰弱は著しく極めて危険な状態にあったが一命は取り留めたらしい。
「らしい」というのは、もう私は愛子には会えない。これから刑法に基づき処罰され、おそらく執行猶予付きの有罪判決を受ける。
愛子は児童養護施設に保護されていると人伝てに聞いた。

私は有罪判決を受け、「現実」を現実として受け入れることを決意した。アルバイトで生計を立てる傍ら、ボランティアで依存症に苦しむ母親に講演を続けた。私のような親を減らさなくてはいけない。子は親を選べない。つらくても親は現実を受け入れる。まずはそこから始めないと逃げてばかりの人生ではますます現実は遠のく。
愛子にはもう会えないかもしれないし、会う資格もない。でもそれが現実だと受け入れられるくらいには私は強くなった。
愛子。あなたは私のことはもう忘れてね。あなたはあなたの現実を生きて。素敵な現実があなたに訪れることだけを私は祈ります。


【著者あとがき】
先日、両親がゲームに依存するがあまり子供を見捨て、餓死させるという痛ましい事件の記事を新聞で読みました。
子を持つ親としてはもはや人知の及ばない行為であり、まるで僕には理解ができません。
藤原さんが仰る通り、人はわからないことをわかりたいと思うからこそ小説を書くのかもしれません。あたかもその人物に成りきったかのように。しかしその出来事が悲しければ悲しいほど、その話に一縷の希望を描きたいと小説家は願うのかもしれません。ただ苦しくて悲しいだけの小説ならば辛すぎて小説など書けないと思うのです。
『本を読む人だけが手にするもの(小説編)』で何冊か小説を読みましたが、どんな小説でも必ずどこかに希望や期待が描かれています。そうでなければ読者もつらくて小説など読めないと思います。
今回のチャレンジは思ったよりも勉強になります。


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