よのなかフォーラム
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タイトル 13歳からのパスポート
投稿日: 2018/10/14(Sun) 23:02
投稿者USA

推薦本シリーズが終わり、近頃は小説も読むようになり、影響を受け、また自分で小説を書いてみました。良ければお楽しみください。

小説 『13歳からのパスポート』

1 パスポート
蒼く澄んだ春空を僕は図書室の窓から眺めていた。
ここのところ空を眺めていることが増えたよな、と少し自嘲気味になりながらも内心微笑む。
学校の昼食後の教室は騒がしい。だから僕は昼休憩になるとすぐに母さんの作ってくれた弁当を携え図書室に行く。もうずっと日課になっている。
中学校に入学したての頃は僕も周りの人に合わせて一緒にご飯を食べたり、会話に混じったりしていたが、ふとその時間が春風とともに虚しく吹き抜けていくだけのように感じた。
無理してその輪に入らなくてもいいんじゃないの、と僕は自問した。授業が終わった後に次の教室に向かう時など誰かとつるんで一緒に行動するということにもどうも違和感を感じていた。
ある日の昼休み、特に意識はしていなかったけど僕の足はなぜか図書室に向いていた。
そこは別世界だった。まるで朝霧がかった空気の澄んだ森の中に迷い込んだかのようだった。同じ学校の中とは思えなかった。たまに調べものをしたりする生徒はいるが、基本的には昼休みに図書室を利用する生徒はいない。
学校という無機質な場所の中で、この空間だけは異空間だった。僕は自分の世界を見つけたような、森の精霊に守られているような不思議な感覚に陥った。誰もいなくても図書室は僕にとって世界と繋がるだいじな大事な場所になった。
学校の制度がどうとか周りの生徒がどうとか難しいことは僕にはわからない。単純に僕の「場」ではないな、そう思うだけだ。学校ではスポーツができたり、勉強ができたり、ひょうきんな性格でみんなを笑わせたり、そういったことで自分を表現できるヤツにはパスポートが与えられる。けどそうじゃないヤツにはパスポートは発行されない。だから僕みたいな内気な人間には自分を証明できるパスポートが与えられないのだ。
それに家でも母さんとは話をするが、父さんとはあまり話をしない。嫌いとかそういう訳でもないが、僕もいわゆる反抗期、思春期というやつなのだろうか。正面切って話すのがなんだか照れ臭い。学校でも家でも「場」がない、なんだかフワフワ宙に浮いたような状態が今の僕だ。

2 ラジオ
(♪とぅるぅとぅ とぅ とぅるぅとぅ とぅ とぅるぅ とぅ とぅるぅとぅ とぅとぅる とぅとぅる るる〜♪)
「今週も始まりました、88( エイティーエイト)のオールナイトジャパン。皆さん、調子はどうですか。
今週はね〜僕夏休みもろてたんですよ。でね、行ってきましてん。ワイハー。誰と行ってきたかて?それ聞きます?野暮なこと聞くな〜。そんなん照れますがな。言うても僕も芸能人の端くれでっせ。これ発表した瞬間、スキャンダルになってヤフーニュースのるでしょ?
って前振りが長いって?わかりました、言いましょか?
ヘビーリスナーなら薄々感じているでしょう。ごっちんです、毎度お馴染みの中学校の同級生ですよ。彼女やなくて悪かったですね。
ほんまにね〜、相変わらずコイツ最悪。まずいつものようにいびきがうるさいでしょ。それにですよ、せっかくのワイハーやのにね、行く直前に腕骨折した言うて海にすら入られへんっていうね。一体何しに来たんやって・・・。」

いつもの軽快なイントロで始まる木曜1時の深夜ラジオ、88のオールナイトジャパン。
夕御飯を食べ、仮眠をとり、好きな小説を読んでからこのラジオを聴くというのが僕のライフワーク。
この番組はもうスタートしてから20年目らしい。僕は今、中学一年生の13歳だから僕が生まれる遥か前からスタートしてるということだ。なんだかそれってすごいことだな。MCの岡田さんと青木さんは僕の父さんとほぼ同い年だ。父さん世代の人の話を聴いてると考えると尚更不思議に感じる。
僕はこの88のラジオが大好きだ。なぜならとにかくリスナーを大事にしているから。というよりこのラジオはリスナーで成り立っていると言っても過言じゃない。
この番組にはいろんなコーナーがあり、それぞれのコーナーにはお題が与えられている。リスナーである全国の通称「ハガキ職人」がネタハガキを番組宛てに投稿してくる。言わば大喜利形式であり、テーマがMCから与えられ、それに対してハガキ職人がボケる、といったスタンスだ。素人なのにハガキ職人のネタはとにかく面白い。ラジオだから当然顔は見えないけれど、僕は全国のハガキ職人を心から尊敬している。何しろ一銭のお金にもならないのに、毎週毎週とてつもなく質の高いボケを無償で番組に提供している彼らの生態が僕には不思議で仕方がない。でもMCとハガキ職人の間にはプロと素人という垣根を超えた目に見えない信頼関係がそこにはある。その信頼関係こそが、この番組が20年も続いている秘訣なのだろう。
これからもずっと続いて欲しいな。今夜も相変わらず面白かった。そろそろ番組が終了する時間だ。クーラーが必要なくなった部屋で心地よく眠りに落ちた。

3 畏敬
しかしこのハガキ職人のネタはいつもおもろいな〜。ペンネームは確か「ライブラリー」やったかな?
お気に入りの88のオールナイトジャパンをユーチューブで聴きながらランニングをするのが俺の週末の日課になっている。88がこの番組を始めてからずっと聴き続けているから俺は20年来のいわゆるヘビーリスナーだ。しかしリスナーではあるものの番組にハガキを投稿するようなセンスもなければ行動力もない。自分にないものをもっているハガキ職人に対しては名前も顔も知らないが畏敬の念すら覚える。
ユーチューブを聴きながらも息子の幸介のことが頭をよぎる。中学校には馴染んでいるのか、友達はできたのか、勉強にはついていけてるのか。あいつは少し偏屈なところがあるからな。
様々なことが気になりつつも正面切ってはどうも話しかけづらい。俺自身が中学生だった時もそうだったからよくわかる。あいつくらいの年齢の時は理屈抜きで親とはうざったいものなのだ。こちらから近況の話題を振ったところで「別に」とか「まぁ、ボチボチ」くらいの適当な相槌しか返ってこないのが関の山だ。自我が芽生える頃だから周りに干渉されればされるほどその周りとは距離を取りたがる。それは親であっても同級生に対してそういうものだろうと俺は思う。
だから必要以上には干渉はしない。まぁ母さんとは話してるみたいだし、そこまで心配しなくてもいいかもな。理由はよくわからないがやたらと母さんに手紙を無心しているようだけど、このご時世に誰かと文通でもしてるんかな?
そんなことを考えながら気がつけばラジオは終了していた。吐く息は少しだけ白くなっていた。

4 ハガキ大賞
『さぁ、始まりました。こんな〇〇は嫌だ、のコーナーです。ペンネーム「ライブラリー」からのネタハガキです。
こんな先生は嫌だ。宿題を忘れた生徒にマジ切れしているが、思いっきりズボンのファスナーを閉め忘れている先生。
これは嫌やな〜。こんなもん気づいてしまった生徒はそのファスナーにしか目がいかへんやん。いくら怒られても集中できへんわ。宿題忘れて生徒に怒る前に、お前がファスナー閉め忘れんなよって話やんな。こんな先生、おるな〜。もうこの先生のあだ名、完全に「ファスナー先生」やろ。
どうもありがとうございました。
今週のネタは以上です。
ところで。
今回の放送は年内最後の放送です。なので毎年恒例の年に一度の「ハガキ大賞」の発表です。今年1年間を通して一番ハガキのネタを採用された人に与えられるハガキ大賞。
発表の前に実はサプライズがあります。今年は我々88のオールナイトジャパンが始まって20年目の記念の年となります。いつもは我々からハガキ大賞の方に景品を差し上げていたのですが、20周年記念ということで今回だけは特別に僕らがハガキ大賞の受賞者のところにお邪魔しようかなと思ってます。それは職場でもいいし、学校でもいいし、家でもいいし、とにかくハガキ職人さんの都合のいいとこならどこでも構わないので、お邪魔して何かしらさせてもらえたらとおもってます。のちにスタッフから連絡を差し上げるので詳しくはその時にお伝えします。
それでは早速発表します。
今年のハガキ大賞は、ペンネーム、、、」

5 パスポート発行
「今週も始まりました、88のオールナイトジャパン。いつもは深夜1時からの生放送なのですが、今回は訳あってとある中学校の昼休憩を利用しまして学校の放送室をお借りしての公開放送です。
そしてゲストは、当校のライブラリーさんとファスナー先生です。」
「ペンネーム、ライブラリーこと幸介といいます。」
「どうもファスナー先生こと掛川と申します。この度はゲストとしてお招きいただき、そして我が校までお越しいただき誠にありがとうございます。」
「ライブラリーはいつも僕らの番組に投稿してくれて本当にありがとうございます。そしてまさかあのファスナー先生にお会いできるとは。光栄です。」
「あのファスナー先生って。すっかりいじられてますね。」
「度々ライブラリーがファスナー先生ネタをハガキで送ってくれるから、僕らもハマってしもてね。だから嬉しいですよ、お会いできて。」
「実は僕も88さんのヘビーリスナーなんです。ちょくちょく出てくるファスナー先生のエピソードがどうにも僕のことを言ってるように思えて少し気にしてたんです。せやから、もしかしたら自分の中学校にハガキ職人がいるんちゃうかと薄々思ってはいました。で、そのファスナー先生のネタを提供してるのがいつもライブラリーなんで、ある時ライブラリーと聞いてピンと来ました。ライブラリーつまり図書室。もしかしたらいつも昼休みに図書室におるアイツちゃうかと。それでそーっと図書室を覗いたら幸介がハガキ書いてるのを見つけたんですよ。
思わず言ってしまいましたよ。お前かー!いうて。」
「そしたらライブラリーはなんて言うたんですか?」
「うわー、ファスナー!!って。僕はもう一回言いましたよ。やっぱりお前やったんやなー!!」
「めっちゃおもろいやん、その出会い。スリル満点やな」
「僕はいつもラジオを聴いてるんでライブラリーがハガキ大賞を取ったことを知ってました。だから88さんがライブラリーといつかはお会いすることも知ってました。僕は幸介に聞いたんです。お前、88さんと会うんか?って。」
「ライブラリーはなんて?」
「まだなんも決めてませんって言うてました。」
「そうなんですよ。せやからうちのスタッフも困ってしもてね。サプライズプレゼントのつもりが実はライブラリーには要らんお節介やったんかなって。」
「幸介はとても繊細なんです。そしてとても賢い。休み時間にはいつも本を読んでるし、いろんな物事も、よー知ってるんです。それゆえにどうもまっすぐモノを見られへんというか、ナナメにモノを見るようなところがあるんです。だから僕ら教員は幸介にはもっと素直に自分を出したらくれたらええのにと常々思ってました。
なので今回88さんとお会いできるというプレゼントはもしかしたら幸介にとって自分を表に表現できるいい機会になるんちゃうかと思い、このような企画を幸介とスタッフさんにお伝えしました。」
「よう、ライブラリーも応じてくれたな。」
「そら、僕も88さんに会えるもんなら会いたいし。でも1人ではよう会わんし。だから、、、」
「このことを校長先生にお伺いしたら、それはオモロイ。ぜひやったらええやん、ということで今回の運びになりました。」
「しかしライブラリーはすごいな〜。自分では内気や言うてるけど、俺らの番組にハガキを投稿してくるだけでもすごいことやで。普通なかなかそんなんできへんもん。すごい行動力やで。何より自分のネタ、ホンマにおもろいし。学校でのライブラリーの様子はどんなもんか知らんけど、あんまり難しく考えずに俺らにハガキ出してくれてるみたいに自然体でいたらええんちゃうか。とにかくいつもありがとうな。」
「今回を機に、幸介が少しでも自分をオープンにしてくれたら僕としても嬉しいです。」
「先生は逆にファスナーをオープンにし過ぎないよう気をつけんと」
「やかましいわ」

学校中の笑い声が春風に乗って放送室を吹き抜けていくように感じた。

僕はなんだか88さんからパスポートをもらったようで嬉しくなった。


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