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タイトル短編小説『てんき』
記事No5190
投稿日: 2020/03/20(Fri) 09:12
投稿者USA
僕は就職活動の真っ最中だった。感染症の影響もあってか、各企業は先行きの見えない不安から新卒採用を控える動きが加速していて僕の面接は連戦連敗だった。
と体裁のいい言い訳を取り繕ったところで内定があるヤツはある。だが僕には一社もない。つまるところ連戦連敗の原因は僕にある。そんなことはわかっていても現在の状況を好転させることは到底叶いそうにない。

躍起になってスマホでエントリーするそんな状況に僕は嫌気がさしていた。スマホの画面に向き合ううちに僕は泥沼に嵌るかような錯覚に陥りどんどん孤独になった。転機が欲しい。

何かいいヒントがないかと僕は本屋に立ち寄った。本など普段はまったく読まないのに。ある本が僕の目に入った。
宮沢賢治の本だった。
パラパラとページをめくってみた。
不思議な世界観だった。正直彼の感性が独特過ぎて僕にはよく理解できなかった。しかし彼の感性に何かを感じずにはいられなかった。この八方塞がりの状況から逃げ出すには彼の感性にヒントがあるかもしれない。僕はふとそう思った。そう思った途端、僕は急に思い立った。
「彼の生まれ故郷、岩手を訪れよう」

僕はレンタカーを借り早池連峰を訪ねた。外は暗がり始め、車を走らせるうちにいつしかスマホは圏外になっていた。外界との繋がりが遮断されたような心持ちになりにわかに不安になった。
駐車場に車を止めた。スマホは未だに圏外だったから車に置いたままドアを開いた。
車に流れこむ冷気は僕の身体を強張らせた。急に僕は寂しくなって誰かと無性に話したくなった。けどスマホは繋がらない。話そうにも話せない。周りには人の気配すらない。周りにはなにも、、、ない?

僕は車から身を乗り出した。
あたり一面、眩いばかりの星が僕を囲んでいた。月明かりに呼応するかのように星も輝く。自分はここにいますよ、とまるで主張するかのように。賢治もこんな風に星を眺めていたのだろうか。彼の生きていた頃にはスマホなんてもちろんない。でも彼はきっと孤独なんかじゃなかったはずだ。だってこれだけの輝きと語り合っていたんだから。彼は大きな夜空に自分を映し出していたに違いない。
僕は彼に少し触れられた気がした。明日はきっと天気だ。