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タイトル小説『ギャンブル』
記事No5082
投稿日: 2019/12/29(Sun) 23:59
投稿者USA
小説『ギャンブル』

「あると思う時に大事にすることよ。あることを当然だなんて思わないで。家族もそうよ。あって当たり前だなんて勘違いにも程があるわ。あなたはずっと家族はいて当たり前だと思っていたかもしれないけどそうじゃない」
「そうだな。なんでそのことになぜ気がつかなかったんだろうな。もうすべてが手遅れだよな」
「その通りよ。今までいくらでも家族と向き合う時間なんてあったわよ。その貴重な時間をあなたはギャンブルで潰したのよ。
でも今回のことで取り返しのつかないことがあるって身に染みてわかったでしょ」
昨晩の会話だ。
俺たちは離婚届に印を押した。
妻の恵美子にとって最後の決め手になったのはやはり俺のギャンブルらしい。
それは5歳の息子である裕人が高熱を出し入院した時だった。その時恵美子は俺の携帯に電話した。俺は着信に気付いた。が、パチンコに夢中なあまり会話らしい会話もせずすぐに電話を切った。しかし恵美子の耳にはがなるようなパチンコ店のノイズがこびりついて離れなかった。一方で俺に対する恵美子の気持ちは完全に離れてしまった。
裕人は原因不明の熱にうなされ、下手をすれば脳に大きな障害を残すと医師に伝えられていた。
恵美子は狼狽えるばかりであり、縋るような思いで俺に電話をしてきた。
しかし俺はその電話にすらまともに取り合わなかったのだ。

そして今日、公園でこうして裕人と遊ぶ。離婚後最後に1日だけでいいから家族3人で過ごしたいと恵美子に頭を下げた。
いつでもできると思っていたがそれをずっとしてこなかった。
恵美子は別れ際に俺にこう言った。
「健康もいつでもあると思っちゃだめよ。あるうちに大事にしといてね」

最後の1日を恵美子と裕人と過ごしてから俺は完全に無気力になっていた。ギャンブルをする気にもなれず、やがて酒に溺れることとなった。
元はと言えばギャンブルをするようになったきっかけは仕事での過失責任を上司から理不尽にも被せられ、職場での居場所がなくなったことへの憂さ晴らしだった。
裕人がもう少し小さかった頃は仕事も順調だったことから心にも余裕があり時間を見つけては裕人と接っしていたが、仕事のストレスを抱えてからはギャンブルに逃げ込んでしまった。そして今はアルコールへ逃げ込んでいる。もはや廃人同然である。崩れるのはあっという間だった。

そんな生活が2年も3年も経過し、身も心もズタズタに切り裂かれた状態の時に恵美子から突如連絡がきた。
「あなた大丈夫なの?噂で聞いたけどかなり深刻な状態みたいね」
俺は一瞬誰からの電話かわからなかった。
しかし今の俺には頼れるものは誰もおらず、嘘でもいいから誰かにそばにいて欲しかった。だから恵美子からの言葉は乾き切った身と心に染み入るようだった。
俺にはわかっていた。俺はもう後先長くない。この何年間で酒により身を酷使し過ぎた。だからこそ最後に誰かにそばにいて欲しい。俺はこんな言葉を恵美子に告げていた。
「恵美子、俺と寄りを戻してくれないか」

再婚をしてから1年が過ぎようとした頃、いよいよ俺の最後が迫っていた。
ギャンブルに逃げ、そして酒に逃げ、逃げるだけの人生だったクズのような俺に、恵美子は信じられないくらいの支えと優しさを与えくれた。
俺はなんとしてでも伝えたかった。
「ありがとう」と。
それを伝えた瞬間、恵美子はこの世のものとは思えない悪魔のような冷徹な笑みを浮かべた。
「あなた、礼には及ばないわ。御礼を言いたいのは私の方よ。あなたと一度別れてから4年が経つわね。そしていよいよ今日を迎えた。
あなたがギャンブルに溺れていく中で、でもあなたのツライ状況がわかっていたから私もなんとかあなたを救い出そうと手を尽くしたわ。あなたが仕事を辞めてからも次の仕事を見つけるまでの間、私は死にもの狂いで働いたわ。なぜならあなたをまだ信じていたから。ただ裕人が危険な状態にあった時のあなたの態度だけはどうしても許せなかった。
あなたがパチンコ店で電話に真面に応じなかった時に私は思ったわ。
あなたもここまで堕ちたのねって。
その瞬間に悪いけどあなたをもはや信じることができなくなった。
私にとっては裕人が一番大事。その大事なものを一緒に守れないあなたをどう信じろというの。
そして同時に私は気づいた。
あなたは弱い。
だからその弱さを何処までも利用しようと決意したわ。裕人を守るためにね。
あなたは弱い。だから離婚すれば必ずまた違う手段に逃げて溺れる。そして崩れる。
その弱り切ったあなたに優しく近寄ればあなたは弱いからまた私を必ず頼る。
筋書き通りよ。
あなたは覚えていないでしょうけど、あなたと離婚する前にあなたに保険をかけていたのよ。
離婚直前に私の貯金をすべて切り崩して、あなた名義の死亡保険の支払いをすべて済ませた。
離婚して予想通りあなたは身体を壊した。
そんなあなたに優しく手を差し伸べ再婚し、そしてあなたはもうすぐ死を迎える。
保険の受取人はもちろん、、、
妻の私よ。
どう?自分がギャンブルに利用される気持ちは。少しは当時の私の気持ちがわかったかしら」

(著者あとがき)
古典チャレンジを進めて5作目ほどになりますが、古典はその振り幅が凄まじいのです。
小説を陰と陽に分類するとすれば、
『潮騒』は陽で『人間失格』や『沈黙』は完全に陰だと思います。
僕の短編小説はどちらかというと陽が多いので今回は人間の狂気を描きたいと思い「陰」にフォーカスした作品を作ってみました。

タイトルRe: 小説『ギャンブル』
記事No5086
投稿日: 2019/12/30(Mon) 23:59
投稿者ようへい

あなたがもし死ぬ間際の主人公であれば、恵美子の話に対してどのように答えますか?



ちなみに私の直感ですが
それでも孤独の中で死んでいくより、たとえ自分への復讐であったとしても自分の相手への所業を考えると1年間献身的につくしてくれたなら十分感謝すると思います。

現代風にいうと十分コスパいいです。

そして感謝の言葉を聞いた恵美子も心も金銭面も救われハッピーエンドとなる気がします。(^_^)

奈良市在住 ようへい

タイトルRe^2: 小説『ギャンブル』
記事No5090
投稿日: 2019/12/31(Tue) 07:11
投稿者USA
>
> あなたがもし死ぬ間際の主人公であれば、恵美子の話に対してどのように答えますか?
>
>
>
> ちなみに私の直感ですが
> それでも孤独の中で死んでいくより、たとえ自分への復讐であったとしても自分の相手への所業を考えると1年間献身的につくしてくれたなら十分感謝すると思います。
>
> 現代風にいうと十分コスパいいです。
>
> そして感謝の言葉を聞いた恵美子も心も金銭面も救われハッピーエンドとなる気がします。(^_^)
>
> 奈良市在住 ようへい

その通りなんです。
本当はこの小説では夫婦の愛を描きたかったのです。
しかしそうなると文量が嵩んでしまうので、結果狂気を描いた場面だけを投稿いたしました。

しかしようへいさんの観察眼には驚きです。
僕の短編小説をすべて読んでいただいてるからこそ、僕が意図する文間まで読み取っていただけるとは(笑)
感動しました。

タイトルRe^3: 小説『ギャンブル』
記事No5094
投稿日: 2020/01/06(Mon) 09:10
投稿者ようへい
USA様
いつもありがとうございます。

> しかしようへいさんの観察眼には驚きです。
> 僕の短編小説をすべて読んでいただいてるからこそ、僕が意図する文間まで読み取っていただけるとは(笑)
> 感動しました。

定点観測の効果ですね。(^_^)

引き続きよろしくお願いいたします。

奈良市在住 ようへい