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タイトル短編小説『小説』
記事No4888
投稿日: 2019/08/25(Sun) 00:19
投稿者USA

あいつらはどんな気持ちなんだろう?
僕にはそれがわからない。
僕を毎日中学校の体育館校舎裏に呼び出しては殴る。それもエスカレートしてきて、最近では万引きも強要してくるようになってきた。
でも僕はそれだけはしなかった。
僕はひたすら耐えてきた。
自分が殴られたり蹴られたりする分には耐える。でも万引きなど親が悲しむようなことだけは絶対にしたくない。
学校に行かなくなると親が心配する。
そう思ってずっと耐えてきた。
僕は片親だ。
父親は離婚してとうの昔に家を出た。
日常的に母さん、そして僕と弟にまで暴力を振るう父を僕は絶対に許せなかった。
だから離婚を引き止める理由なんてまるでなかったし、その経験からどんなことがあっても暴力で人を傷つけるようなことはしないと決めた。
片親だから裕福じゃない。だからあいつらからすれば、みすぼらしい姿の僕が目障りなのだろう。
どんな状況であっても僕は絶対に殴り返さなかった。やり返してしまったらあの父の暴力を、理不尽さを認めてしまうような気がしたから。


殴られるたびに、蹴られたびに僕の中には「なぜ?」が降り積もっていった。なぜ僕がいじめられなきゃいけない?なぜ僕が殴られなきゃいけない。僕の何がいけないのか?そうした「なぜ?」は心の中に堆積する一方だった。
もう少しでその堆積物が僕の中で引火して良からぬ何かが爆ぜそうな気がした。その何かが何かはわからない。

ツラい

僕はもうこの世にいるべきじゃないのかな?


僕は縋るような思いで学校の図書室に逃げ込んだ。
図書室には図書係や先生が常駐しているのであいつらも図書室の中までは入ってこない。
僕は学校が閉まる時間までずっと図書室にいた。
最初は本など何も読まずひたすら時間が過ぎるのを待っていた。ずっと図書室にいればあいつらと会わずに済むから。
けどある時、ふと目にした小説を手にしてみた。
僕はその小説に夢中になっていた。
読んでいるうちに気づけば閉館時間になっていた。
それ以降、僕は小説の世界にハマってしまった。
小説の世界はどこまでも自由だ。
作者の想いを余すところなく小説にぶつける。誰も傷つけることなく。時には読者に感動や希望を与える。
イジメをするあいつらの行動はどこまでも卑怯で卑屈だと今となっては冷静に分析できる。
何かしらのストレスの捌け口を暴力という形でしか表現できない。それも自分より弱いものを対象にして。もはや獣以下だとさえ思う。獣でさえ生存のためなら時には自分より強いものに挑む。しかしあいつらはそうではない。常に対象は弱者。
僕の中で、暴力で自分の想いを表現する、という選択肢はない。報復と言えども暴力に頼ればあいつらと同じだし、父と同じになる。
でもこのままだと僕の中で何かが壊れる。
そんな中、縋る想いで図書室に逃げ込んだ。そこで小説に出会った。この出会いは偶然の中で起きた必然なのかもしれない。
正直あいつらがどんな気持ちなのかわからない。わかりたいとも思わない。
しかし、自分の中の気持ちを表現したい。言葉にしたい。そう思うようになった。
もしかしたら小説家とはそういうものなのかもしれない。
心の奥底にあるこの気持ちはなんなんだろう?
そうした気持ちを表現することで自分とは何かを表現しているのではないか。
もし自分の気持ちを言葉で表現できれば、暴力でしか自分を表現できないあいつらとは何段階も崇高な段階に行けるような気がした。
僕はそのことに気がついた。
気がついたことによって自分の中の堆積物が確実に減ったような気がした。


それからというもの僕は貪るように本を読んだ。そして読みながら自分の感じたこと、思ったことをひたすら書き連ねた。
そんなことを繰り返しながら、僕はある小説を書き上げた。
僕はその小説をあいつらに手渡した。
騙されたと思って読んでくれ。
絶対損はしないから。
それだけ言って手渡した。

概ねにいうと僕が手渡した小説の内容はこんなところだ。
ある2人、AとBが亡くなった。
Aの葬式にはとても多くの人が集まった。その参列者を見るとどの人もみんな心の底から哀しんでいる様子が見てとれる。
Bの葬式は全くその逆。誰も参列者などいない。そもそも葬式さえ開いてもらえない。葬式どころか看取ってくれる身内さえ誰もいない。
2人の違いはどこから来たのか。
Aは昔から正直だけをモットーに生きてきた。嘘はつかない、暴力は振るわない、人を傷つけない。
Bはまた全くの逆。自分の苛立ちをすぐにぶつける。なりふり構わない。相手の気持ちなど慮る余裕もない。
Aは老衰で周りに看取られながら亡くなった。
Bは金銭トラブルが基で相手方にグサリ。

まぁザックリいうとこんな内容だ。

Bとはもちろんあいつらをイメージして書いた。最後に「グサリ」となるまでの過程はかなり具体的に書いた。だからだろう、知恵のないあいつらにもそのリアリティは充分に伝わった。
それからというもの、あいつらからのいじめはなくなった。かと言って俺があいつらから受けた仕打ちは決して忘れない。だからあいつらと今後仲良くする気もさらさらない。
僕は「昔は悪だったけど今は更生して真っ当な人間です」的なエピソードが大嫌いだ。
一貫して真っ当な人間の方が偉いに決まっている。過去の悪さをあたかも美談にするような風潮には反吐が出る。
だからこそ僕のような被害者が少しでも減るように僕が書いた小説を何がなんでもあいつらに読んで欲しかった。
想いがあるから小説がある。
そしてその強い想いは読者に必ず伝わる。
そのことを僕は強く学んだ。

タイトルRe: 短編小説『小説』
記事No4925
投稿日: 2019/09/13(Fri) 23:41
投稿者ようへい
USA様

新作ありがとうございます。

タイトル 小説 がまず面白いですね。

僕は「昔は悪だったけど今は更生して真っ当な人間です」的なエピソードが大嫌いだ。
一貫して真っ当な人間の方が偉いに決まっている。過去の悪さをあたかも美談にするような風潮には反吐が出る。

この意見に賛成です。やんちゃだった=被害者多数と読めます。

小説50に挑戦する前のUSAさんが 小説 を 読んだら
どう思うのか その辺に興味が沸きました。

いつもありがとうございます。
かなり作品がストックされてきましたね。(^_^)

奈良市在住 ようへい