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タイトル小説『昭和、平成、そして令和』
記事No4739
投稿日: 2019/05/11(Sat) 22:39
投稿者USA
小説『昭和、平成、そして令和』

終わった。さっそく俺の人生終わった。
やっと俺は公立高校の先生になれた。30歳を過ぎてようやく。サラリーマンを経て、眠い目を擦りながらの苦学の末、やっとの想いでなった先生。
若い女子高生に永遠に囲まれることを約束されたプレミアムチケット。
あーざっす!!
採用通知が届いた時には思わず涙した。
しかし配属先を聞いて奈落の底に落ちた。
県内で唯一の男子校。正確には共学。だが女子がまったく受験しない。だからある意味男子校。
おい、教育委員会。これはどういうことだ。
勤める前からパワハラか。いやセクハラか。いや何ハラなんだ?とにかく嫌だ。行きたくねぇ。何が嬉しくてこんなクソ田舎の男子しかいない学校で働かなくてちゃいけないんだ。何がいけねぇ。俺の不純な動機が見透かされたのか。

寒い。校舎に入っていきなり寒い。校舎から遠くに見える立山のアルプスにはまだ雪が残っている。だから寒いのはある程度はわかる。だがそれを差っ引いても寒過ぎる。
わかった。窓がない。いや、窓枠はある。窓枠しかない。窓ガラスが一枚もない。すべて割られている。

「はじめまして。今日からこちらの学校に赴任した橘太一といいます。よろしくお願いします」
まったく気乗りはしねぇがとりあえず自己紹介をした。
ガラの悪い生徒が15人座っている。俺の担当は3年1組。というより各学年1組しかない。全校生徒合わせても50人に満たない。
令和のこの時代に長ラン短ランリーゼント。なんだここは。昭和か?てゆーか俺、昭和知らねえよ。平成元年生まれだよ。でも平成にお前らみたいなヤツ見たことねぇからきっと昭和に違いねぇ。

「時に聞くが、君達、なぜ窓ガラスが一枚もないんだ」
「あ、うるせぇよ。全部割ったんだよ。俺らを学校っていう枠に閉じ込めようなんてうぜぇんだよ。だから窓ガラス割ったんだよ。いけねぇのかよ」
一番前の席に座っている小僧が噛みついてきた。配席図を確認すると太田大介という生徒だ。
(枠がうぜぇんなら窓枠を取り外せよ。なんでわざわざガラス割るんだよ)俺のこころの声がそう呟く。
「何がうざいのかは正直わかんないけど、でも太田くん、寒くないっすか?純粋に寒くないっすか?だってまだ山には雪も残って見えますよ」
「あぁ!!寒くねぇよ。んなもん気合いでなんとかなんだよ」
「太田さん、気合いがいるってことは寒いってことじゃないっすか。それに他の皆さん、学ランの下にセーターを着てらっしゃるような、、、」
ここで太田の横に座ってる片渕拓真が乗っかかる。
「あぁ!てめぇ、さっきから何が言いてぇんだよ!気合いだよ。気合い!俺ら根性がハンパねぇだよ」

昭和情緒が残るヤンキー相手にラチがあかないので気を取り直して授業を始めることにした。
「それでは田中光一くん、国語の教科書の最初のページを読んでくれ」
「わたしは、そのひとを、、、に、、」
「おい、どうした。進めてくれ」
「わかんねーんだよ、読み方が」
「いや、常に、だから、つねにって読むんだけど」
「わたしは、そのひとを、つねに、さきいきと、、」
「さきいき?いや、あの、先生だから、せんせいって読むんだけど、、、。田中さん、ありがとうございます。皆さまの中で、ぜひ我こそは読みたい、いや、読めるぞ、という方はいらっしゃいますか?」
30の瞳は揃って明後日の方向を向いていた。
漱石先生、僕は先生の「こころ」を読ませていただいていますが、僕はコイツらのこころがさっぱり理解できません。
「オーケー、諸君。いったん教科書を閉じよう」
俺は頭痛がしてきた。おい、教育委員会。これは何ハラなんだ。昭和ハラスメントか?学ランハラスメント?なんでもいい。勘弁してくれ。どうせこのまま授業を進めたところでコイツらの耳には右から左でまったく意味がないだろう。考えろ、俺。考えるんだ。何の話をすればコイツらに響く。というか理解できる。

俺はキャラ変した。昭和モードに。
「よー、オメェら。もう授業は終わりだ。それよりだ、さっきの窓ガラスの話に戻るがよ、なぜ元に戻らねぇと思う?」
「あぁ、そんなこと知ったこっちゃねぇよ!」
「まぁ待て、太田くん。ここは冷静に考えてみてくれ。お前ら、年に何回窓ガラスを割る?」
「何を訳わかんねーこと言ってんだ、せんせいよっ!そんなもん2回くらいじゃねーのか?何が言いてえんだ」
「田中も落ち着けよ。そうか、2回か。てゆーことは1回は誰かが直してくれてるってことだな。しかし2回割った後はもう放ったらかしってことだな」
「そうだよ。それがどうしたよ。上等じゃねーか。俺らに枠なんかいらねーんだよ」
(だから田中くん、それならガラスを割るんじゃなくて枠なしの窓にすればいいじゃない。これじゃ寒いだけじゃん)
「1回は直してもらえても2回目は壊れたまま。そこに何か意味があるとは思わないか?」
「また壊すだけだから意味ねぇと思ってんじゃねぇのか」
「片渕。でもその窓、4月以降にまた1回復活しねーか?」
「あぁ!そうかもな。そういやいつの間にか復活してた気はするな。でもまた割るだけだけどよ!」
「なぜしばらく放っておかれた窓ガラスが4月以降に復活すると思う?」
「んなことぁ知らねーよ!気まぐれなんじゃねーの」
「誰が気まぐれでお前らが割った窓ガラスを直すんだよ。ちょっとは考えてみろよ、片渕。そんな気まぐれ屋さんがいるなら俺は会ってみてーよ。きっと仏様かブッダ並に徳のある人だぜ」
「じゃあ誰なんだよ」
おぉ、太田くん。いい感じに話に食いついてきてんじゃないの。
「誰かというよりは時期の問題だよ。要は予算が4月以降におりるんだよ、修繕費としてな。平たく言うとよ、学校っていう建物はあちらこちらでガタがくるから、そのガタを直すためにある程度の金をくれるんだよ。この学校の場合は公立だから、まぁ出どころは国と県だな。んでもって2回目以降に直らねーってことはその金がなくなったってことだ」
「あぁ、そうじゃねーだろ!センコーどもが俺らにビビってひるんでるだけだろ」
「田中くん、違うよ。予算の問題だ。物事にはすべて裏付けがあるんだよ。裏付けなんていったらオメェらには難しいか。まぁルールだ。すべてはルールで動いてんだ。ルールに従って、お前らは今こうして寒い。それだけだ」
「俺らはルールになんかしばられねーよ」
「そしたら田中の力でこの窓ガラスなんとかしてくれよ。ルールなんか関係ねぇんだろ」
「んなたりーことやってられっかよ」
「いいか、てめぇら。よく聴けよ。よのなかにはすべてルールがあるんだよ。この窓ガラスの話でもよくわかっただろ。お前らは結局ルールの枠内で踊らされてんだよ。気づいたか!
もっとムカつく話をしてやろうか。お前らにはわかんねーかもしれねーが、同じ公立高校でもこの学校とは比べものになんねーくらいスゲー設備の学校はゴマンとあるぜ。同じ公立なのによ。なぜだかわかるか?予算があるからだよ。金があるからだよ。なんで金があるかわかるか。それはこのクソみてぇな学校よりも実績があるからだよ。要は信用されてんだ、てめぇらよりも。なんで信頼されるのか?それは進学してる人数だったり、クラブの実績だったり、信頼できる要素が多ければそれだけ金をくれって言える材料があるってことなんだよ。
わかったか。よのなかにはルールってもんがあって、流れがあって、その流れに沿って人間も動くんだ。
一番バカなのはそのルールを知らずに踊らされてることにも気づいていないヤツだ。てめぇらがそれだ。それが嫌ならルールを学べ!悔しくねーのか!!」


「おい、あのセンコーのことどう思うよ」
学校の帰り道、3人で河原沿いに寝そべり、タバコの煙とともに太田がふっと話を切り出す。
「なんかよ、あいつハラタツけどよ、言ってることは妙に納得できねーか。だってよ、実際窓ガラス割ったらいつの間にか復活してんじゃん。しかも同じ時期に」
「俺も田中とおんなじこと考えてたよ。なんかよ、スゲー話じゃねーか?あいつが言いてぇのはよ、ルールを知ってたらバカを見ねぇってことだろ。正直勉強って思うとたりーけどよ、バカを見たくねぇと思えば多少気合い入んべ」
「そうだよな、片渕。なんかアイツ口は悪りぃけど、スゲぇこと言ってんじゃね。俺はバカだけど、バカにはされたくねぇよ」
「お前ら、もう少し考えてみねーか。たしかにルールは知っといた方がいいよ。ちげぇねー。けどそれなら結局ルールを作ったヤツに踊らされて終わりじゃねーか。
アイツがいってたとおり、一番のバカはルールすら知らねえヤツだよ。でも二番目にバカなのはルールを知った上でそれでも踊ってるヤツだよ。それならよ、一番賢いヤツっていうのは、一番最初にルールを作ったヤツなんじゃねーの。最初にルールさえ作っちまえば後のヤツはついてくるしかねぇじゃねえか」
「おい、太田。お前天才じゃね?マジでスゲーよ。おい、俺らでよ、全国的なルール、日本を巻き込むようなルール作っちまおうぜ。日本を、いや世界を変えようぜ」


それから数年後
とある全国ネットのテレビ中継
「ここが日本で一番有名な長ラン短ランメーカーの起源とも言える県立高校です。ここの卒業生である当時の3年生は自分たちのブランドを立ち上げ、学ランコンテストなど様々なイベントを手掛け、今や年商数百億となった大企業です。それでは当時の担任をしておられた橘太一先生にお話を伺います。
先生いかがですか、卒業生のご活躍をみての御感想は?」
「いや、嬉しい限りですよ。今や全国から長ラン短ランのリーゼントが我が校に押し寄せて、相変わらず男子生徒のみです。
これ全国ネットですよね?
えー全国の皆さん、我が校は共学です。ここが一番大事です。令和になってからも、女子生徒絶賛募集中です!!」
「えー視聴者の皆さま、なぜか橘先生は混乱気味のご様子です。一旦中継をスタジオにお返しします」

春の冷たく爽やかな風が、割れていない窓ガラスを優しくノックした。

タイトルRe: 小説『昭和、平成、そして令和』
記事No4755
投稿日: 2019/05/17(Fri) 23:36
投稿者ようへい
USA様
ありがとうございます。

ドラゴン桜の名言
バカとブスこそ東大へ行け!を思い出しました。

世の中のルールは知らないうちに決められていきます。
だとしたら、ルールを詳しく知っておくことは作ること同様に大切ですね。

令和の不良の新スタイルはもはや仮想現実空間内になるのかもしれmせんね。笑

奈良市在住 ようへい