[リストへもどる]
一括表示
タイトル短編小説『神様』
記事No4663
投稿日: 2019/02/23(Sat) 01:10
投稿者USA
短編小説『神様』

ねぇ、神様ってなんでも知ってるんだよね。
だからね、教えてね。
神様って、しのぎって知ってる?
忍者の「しのび」じゃないよ。し、の、ぎ。
僕の作ってる葉っぱはね、おじさん達のしのぎに使われてるんだって。僕はね、それを細かく刻んで他の粉とまぜてね、袋に詰めるんだ。
僕の手際がいいからって評判があるんだって。誰に評判があるかまでは僕は知らないよ。でも神様なら知ってるでしょ、それくらい。
僕のね、お父さんはいないの。おじさんたちに怒られて、怖くなって家から出て行っちゃったんだよ。それでね、今家にいるのは寝たきりのお母さんと、まだ6歳の妹だけ。だからおじさんたちの言うことを聞けるのは僕だけだっていうこと。
おじさんたちはね、こう言うんだ。
「君たちは家族なんだろ?お父さんは帰ってこないかもしれないけど、その分君がしっかりしなくちゃいけないよ」って。
僕はある時、おじさんたちがコソコソ話してるのを聞いたんだ。
「あんなガキにクソ親父の肩代わりなんて何もできねぇだろ。でもよ、葉っぱ作りなら材料さえ渡せばなんとかなるだろ。それにガキっていうのがいいじゃねぇか。ポリの目眩しにもなるしよ。いいしのぎになるよ。」

ねぇ、神様教えて。「ポリの目眩し」ってなんのこと?それはいけないことなの?でもね、それをしてるとね、おじさんたちは何もしてこないんだ。たまにお小遣いもくれるし。逆にね、僕が風邪を引いたりして少し休んだりすると、おじさんたちは人が変わったように怖くなるんだ。
だからね、なんとなくわかるんだ。それはおじさんたちには「いいもの」だって。

なんでお父さんはいないのかな?なんで僕は友達と遊べないのかな?目立つから学校にだけはいけっておじさんたちはいうけど。でも葉っぱのことは絶対に言うなって。言ったら、「××す」って。

ねぇ、神様。僕は何のために生まれてきたのかな?僕もみんなみたいに、お父さんお母さんに抱きしめて欲しいな。妹にも何か買ってあげたいな。こんな風に思うって贅沢なことなのかな?
「ポリの目眩し」がよくないことっていうのはなんとなくわかるよ。でもさ、それをしないとおじさんたちはすごく怖いよ。
神様はすごいひとなんでしょ。助けてよ。お願い、助けてよ。

そうじゃないと、僕が神様を「××よ」

僕は40℃を超える熱が出て全く動けなかった。いつもは葉っぱをおじさんの友達に外で渡すのに、今日はおじさんたちがイライラして家の中に入ってきた。とてもイライラしていた。怒りくるい、家の中をめちゃくちゃにした。
それを僕の家の近所の人がお巡りさんに言ったみたい。

その後のことは、記憶に、ない。


後日、このことは日本中を騒がすニュースになった。
「まだ小さい子供なのに、こんなことが身の上に襲いかかる日本はどうかしてる!」
「基本的人権も何もないじゃないか!憲法違反も甚だしい!」
「児相は何をしてたんだ!学校は!教師は!」
このニュースが契機となり、超党派協議による「人権ベーシックインカム」の法案が国会で通過した。要は子供の基本的な人権を親とは切り離し保護するといったもので、そこでは自己破産や債務整理といった概念をなくし、社会全体として子供を保護するという施策である。子供が当たり前のことを当たり前に享受できなくては日本の未来はないといった考えのもとに生まれた法律である。

母は介護施設に預けられ、僕と妹は学校が終われば地域のボランティアの皆さんに勉強を教えてもらった。その後は、子供2人じゃ寂しいだろうと、近所の人が僕らの家にご飯を作ってもってきてくれたりした。

僕は神様を××さなくて良かった。おじさんは来なくなって、その代わりに天使のように優しい人達に囲まれるようになったのだから。

ありがとう、神様。

タイトルRe: 短編小説『神様』
記事No4664
投稿日: 2019/02/23(Sat) 21:29
投稿者ようへい
USA様 いつもありがとうございます。

子どもの貧困問題は、今後人口構成上大きな問題になると考えられますよね。

人口動態に根ざす問題の解決は本当に難しい‥。

出来っこないと思えることが多すぎます。

タイトルRe^2: 短編小説『神様』
記事No4666
投稿日: 2019/02/24(Sun) 23:31
投稿者USA
> 出来っこないと思えることが多すぎます。

今、『歓喜の仔』を読んでいます。
読んでいて胸の奥がきりきりするような痛みを感じます。
僕の今回の短編小説『神様』は、この『歓喜の仔』がベースとなっています。
作者の天童荒太さんはどのような感情でこの小説を書き上げたのでしょうか。僕はその感情のひとつに行き場のない怒りがあるように思えてなりません。