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タイトル短編小説『逃げ道』
記事No4601
投稿日: 2019/01/22(Tue) 01:40
投稿者USA
小説『逃げ道』


「なぁ、ちょっとオトンに話したいことがあんねんけど。」
「な、なんや。改まって。何でも言うてみ。」と言いながらオトンは少し姿勢を正し、身構えた。横に座っているオカンは俯き加減になりながら、テーブルの片隅を見つめるようにオトンの横に座っている。
「ウチってさ、はっきり言うて貧乏やん。俺なんかスマホどころか携帯もないし。オトンも未だにガラケーやしな。今時の中学生なんてスマホくらい皆んな持ってるわ。まぁ、そんなんはどうでもええねん。でな、なんか俺はそのスマホの中でクラスのみんなからイジメられてるらしいわ。」
「スマホでイジメってどういうことやねん。」とアナログ日本代表の父が訝しげに尋ねる。
「俺もようわからんねんけど、クラスの大半が参加してるサイトがあるらしいわ。そのサイトでな、なぜか知らんけど俺が標的にされてるみたいやねん。」
「標的ってなんや。具体的に何されてんねん。」
「なんか俺にちょっかい出したら、それに応じて点数が加算されんねんて。俺を実際に叩いたら10点。蹴ったら20点。でも先生にバレたらゼロ点になる、みたいな。そんなことをスマホでこそこそやってるみたいやねん。」
「なんやねん、それ。何がおもろいねん。別にお前に喧嘩を売ってきてるわけでもないねやろ?」
「せやねん。何がおもろいねやろ。意味わからんやろ。でな、俺、もう学校行くの嫌やねん。もう毎日なんで生きてるかわからんような感じで、どんどん気分も落ち込んで、もう死にたい、、、、、、、、ってならんわ!!思わずノリツッコミしてもうたわ!!」
オトンは突然の俺のノリツッコミに唖然として口を開けている。
「マジで意味わからんやろ。わざわざ学校にそんなつまらんことしに来て、頭オカシイやろ?俺もな、最初の頃はいろいろ考えてん。何か俺が悪いかな?貧乏やからあかんのかな?それとも皆んな色々ストレス抱えてるから、それを発散するために俺をしばいてるんかな?とか。でもな、ある時、そんなことを考えること自体がアホらしなってん。なんて言うか、後ろ向きやろ。アイツらがどうとか、自分がどうとか、そんなつまらんことを考えるのに時間を割くのがホンマに無駄というか、アホらしなってん。」
「お、おう。確かにな。確かに無駄って言うたら無駄やわな。」
「そんなアホなことに俺は一分一秒も無駄に費やしたくないねん。で、俺はふと思ったんやけど、そもそも学校って行かなあかんのか?義務教育やいうて、そんな無理からカゴの中に閉じ籠めるようなことするから、それを窮屈に感じるヤツもおるんやろ?俺自身もはっきり言うてそうやわ。」
「お前、学校辞めたいんか?」
「辞めたいって言うとちょっと違うわ。時間を無駄にしたくないねん。はっきり言うて学校くらいの勉強なら自分で何とかできるわ。俺、そこそこ賢いし。俺な、やりたいことがあんねん。」
コイツはマジで俺の息子か?いつからこんなにはっきりと自分の意思を伝えられるようになったんや。最愛の息子がイジメを受けてると聞かされ、最初は腹わたが煮えくり返りそうだったが、徐々にその気持ちも薄れ今では少し息子が誇らしく思えてきた。イジメがコイツを強くしたんか?
「で、なんやねん。お前のしたいことって」
「俺な、学校でずっと本を読んでてん。そこでインドの本を読んだんや。インドってな、貧乏な人が多いねんて。それも俺らが思い描くような貧乏のレベルやのうて、ホンマに何もない。文字通りその日食うもんも何もない暮らしをしとる人がごまんとおるらしいわ。でもな、そんな人を助けたいと思って、貧困に喘ぐ人を救って、そして最終的にはその貧困の人らが自分らでビジネスを成功させて、その収益でまた他の人を救う、みたいなそんなことをしてる人がおるねんて。俺は感動したわ。これこそ究極に前向きやろ。確実に困ってる人がいて、そのアイデアで確実に助かる人がいて、言うたら需要と供給が120%マッチしてるやろ。クソみたいに後ろ向きなイジメと違って、とんでもなくポジティブで前向きやん。こんなことをしてる人がいると知って俺は身体中がシビれたわ。せやからな、どんなところか見てくるわ、インド。」

それから数年後。息子はインドでかの創業者に弟子入りし、救済ビジネスを一から学んだ。息子の行動は瞬く間に世界中に広まった。

「オトンとオカン。あの時はありがとうな。2人が俺の戯言を真剣に聞いてくれたからこそ、今があんねん。人によっては俺はイジメから逃げたって言うヤツもおるかもしらんけど、そもそも真正面から向き合うべきもんでもないやろ。他に選択肢があればそっちに挑戦したらええと思う。それを支持してくれたんは他でもないオトンとオカンやわ。ホンマにありがとう」
コイツはもはや完全に俺の手から離れたな。そう思いながら息子とキツくキツく手を握り合った。

タイトル著者あとがき
記事No4602
投稿日: 2019/01/22(Tue) 19:31
投稿者USA
この小説を書くに至ったキッカケは『イノセント・デイズ』と『悪の教典』を読んでいて、イジメや虐待に関してもはや解決しようのないくらいどうしようもない状況が世の中にはある、と思ったことでした。
もし仮に自分の子供がそうなったら親として僕はどう対応できるだろう、そんなことを考えました。
幸いにも僕自身は小説に出てくるような経験はありませんが、でも、いつどのような形で我が身に降りかかるかわかりません。その意味において小説を読む意義はあるのかもしれません。

タイトルRe: 短編小説『逃げ道』
記事No4604
投稿日: 2019/01/22(Tue) 22:13
投稿者ようへい
奈良市在住の ようへい です。

USA様ありがとうございます。

性善説ベースの日本は、少し前までは いじめ 自体の存在も否定気味で、万が一あったとしても いじめ 自体の原因は集団には無くて、被いじめ者にあるとさえ思われていたように感じます。

また いじめ を有無を言わさずに終結に導く武力行使を容認された鉄拳先生の存在等も抑止力に関わっていたような気が・・

スマホのSNSやクローズドのグループ作成などはテクノロジーがアシストしてしまっている 進化型 いじめ に対しては、もやは武力行使を封じられた先生方は無力のようにさえ思います。 

進化型いじめ を解決するには 受け手側のマインドの変化しかないのでは?と私は思います。

いじめをするようなつまらない人間と関わるのが 馬鹿らしい。
そんな事が蔓延している場に参加するのも あほらしい。
そういう風に強く生きられればいいのですが。

私自身がいじめられれば、そのように行動できたのか?できるのか?
分かりませんが、
一つだけ言えることは、国家が絶対、学校が絶対という価値観は、いじめ を進化させた テクノロジーによって揺らいでいるのは間違いなさそうですよね。

引き続き 小説 楽しみにしております。(^_^)