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タイトル13歳からのパスポート
記事No4446
投稿日: 2018/10/14(Sun) 23:02
投稿者USA
推薦本シリーズが終わり、近頃は小説も読むようになり、影響を受け、また自分で小説を書いてみました。良ければお楽しみください。

小説 『13歳からのパスポート』

1 パスポート
蒼く澄んだ春空を僕は図書室の窓から眺めていた。
ここのところ空を眺めていることが増えたよな、と少し自嘲気味になりながらも内心微笑む。
学校の昼食後の教室は騒がしい。だから僕は昼休憩になるとすぐに母さんの作ってくれた弁当を携え図書室に行く。もうずっと日課になっている。
中学校に入学したての頃は僕も周りの人に合わせて一緒にご飯を食べたり、会話に混じったりしていたが、ふとその時間が春風とともに虚しく吹き抜けていくだけのように感じた。
無理してその輪に入らなくてもいいんじゃないの、と僕は自問した。授業が終わった後に次の教室に向かう時など誰かとつるんで一緒に行動するということにもどうも違和感を感じていた。
ある日の昼休み、特に意識はしていなかったけど僕の足はなぜか図書室に向いていた。
そこは別世界だった。まるで朝霧がかった空気の澄んだ森の中に迷い込んだかのようだった。同じ学校の中とは思えなかった。たまに調べものをしたりする生徒はいるが、基本的には昼休みに図書室を利用する生徒はいない。
学校という無機質な場所の中で、この空間だけは異空間だった。僕は自分の世界を見つけたような、森の精霊に守られているような不思議な感覚に陥った。誰もいなくても図書室は僕にとって世界と繋がるだいじな大事な場所になった。
学校の制度がどうとか周りの生徒がどうとか難しいことは僕にはわからない。単純に僕の「場」ではないな、そう思うだけだ。学校ではスポーツができたり、勉強ができたり、ひょうきんな性格でみんなを笑わせたり、そういったことで自分を表現できるヤツにはパスポートが与えられる。けどそうじゃないヤツにはパスポートは発行されない。だから僕みたいな内気な人間には自分を証明できるパスポートが与えられないのだ。
それに家でも母さんとは話をするが、父さんとはあまり話をしない。嫌いとかそういう訳でもないが、僕もいわゆる反抗期、思春期というやつなのだろうか。正面切って話すのがなんだか照れ臭い。学校でも家でも「場」がない、なんだかフワフワ宙に浮いたような状態が今の僕だ。

2 ラジオ
(♪とぅるぅとぅ とぅ とぅるぅとぅ とぅ とぅるぅ とぅ とぅるぅとぅ とぅとぅる とぅとぅる るる〜♪)
「今週も始まりました、88( エイティーエイト)のオールナイトジャパン。皆さん、調子はどうですか。
今週はね〜僕夏休みもろてたんですよ。でね、行ってきましてん。ワイハー。誰と行ってきたかて?それ聞きます?野暮なこと聞くな〜。そんなん照れますがな。言うても僕も芸能人の端くれでっせ。これ発表した瞬間、スキャンダルになってヤフーニュースのるでしょ?
って前振りが長いって?わかりました、言いましょか?
ヘビーリスナーなら薄々感じているでしょう。ごっちんです、毎度お馴染みの中学校の同級生ですよ。彼女やなくて悪かったですね。
ほんまにね〜、相変わらずコイツ最悪。まずいつものようにいびきがうるさいでしょ。それにですよ、せっかくのワイハーやのにね、行く直前に腕骨折した言うて海にすら入られへんっていうね。一体何しに来たんやって・・・。」

いつもの軽快なイントロで始まる木曜1時の深夜ラジオ、88のオールナイトジャパン。
夕御飯を食べ、仮眠をとり、好きな小説を読んでからこのラジオを聴くというのが僕のライフワーク。
この番組はもうスタートしてから20年目らしい。僕は今、中学一年生の13歳だから僕が生まれる遥か前からスタートしてるということだ。なんだかそれってすごいことだな。MCの岡田さんと青木さんは僕の父さんとほぼ同い年だ。父さん世代の人の話を聴いてると考えると尚更不思議に感じる。
僕はこの88のラジオが大好きだ。なぜならとにかくリスナーを大事にしているから。というよりこのラジオはリスナーで成り立っていると言っても過言じゃない。
この番組にはいろんなコーナーがあり、それぞれのコーナーにはお題が与えられている。リスナーである全国の通称「ハガキ職人」がネタハガキを番組宛てに投稿してくる。言わば大喜利形式であり、テーマがMCから与えられ、それに対してハガキ職人がボケる、といったスタンスだ。素人なのにハガキ職人のネタはとにかく面白い。ラジオだから当然顔は見えないけれど、僕は全国のハガキ職人を心から尊敬している。何しろ一銭のお金にもならないのに、毎週毎週とてつもなく質の高いボケを無償で番組に提供している彼らの生態が僕には不思議で仕方がない。でもMCとハガキ職人の間にはプロと素人という垣根を超えた目に見えない信頼関係がそこにはある。その信頼関係こそが、この番組が20年も続いている秘訣なのだろう。
これからもずっと続いて欲しいな。今夜も相変わらず面白かった。そろそろ番組が終了する時間だ。クーラーが必要なくなった部屋で心地よく眠りに落ちた。

3 畏敬
しかしこのハガキ職人のネタはいつもおもろいな〜。ペンネームは確か「ライブラリー」やったかな?
お気に入りの88のオールナイトジャパンをユーチューブで聴きながらランニングをするのが俺の週末の日課になっている。88がこの番組を始めてからずっと聴き続けているから俺は20年来のいわゆるヘビーリスナーだ。しかしリスナーではあるものの番組にハガキを投稿するようなセンスもなければ行動力もない。自分にないものをもっているハガキ職人に対しては名前も顔も知らないが畏敬の念すら覚える。
ユーチューブを聴きながらも息子の幸介のことが頭をよぎる。中学校には馴染んでいるのか、友達はできたのか、勉強にはついていけてるのか。あいつは少し偏屈なところがあるからな。
様々なことが気になりつつも正面切ってはどうも話しかけづらい。俺自身が中学生だった時もそうだったからよくわかる。あいつくらいの年齢の時は理屈抜きで親とはうざったいものなのだ。こちらから近況の話題を振ったところで「別に」とか「まぁ、ボチボチ」くらいの適当な相槌しか返ってこないのが関の山だ。自我が芽生える頃だから周りに干渉されればされるほどその周りとは距離を取りたがる。それは親であっても同級生に対してそういうものだろうと俺は思う。
だから必要以上には干渉はしない。まぁ母さんとは話してるみたいだし、そこまで心配しなくてもいいかもな。理由はよくわからないがやたらと母さんに手紙を無心しているようだけど、このご時世に誰かと文通でもしてるんかな?
そんなことを考えながら気がつけばラジオは終了していた。吐く息は少しだけ白くなっていた。

4 ハガキ大賞
『さぁ、始まりました。こんな〇〇は嫌だ、のコーナーです。ペンネーム「ライブラリー」からのネタハガキです。
こんな先生は嫌だ。宿題を忘れた生徒にマジ切れしているが、思いっきりズボンのファスナーを閉め忘れている先生。
これは嫌やな〜。こんなもん気づいてしまった生徒はそのファスナーにしか目がいかへんやん。いくら怒られても集中できへんわ。宿題忘れて生徒に怒る前に、お前がファスナー閉め忘れんなよって話やんな。こんな先生、おるな〜。もうこの先生のあだ名、完全に「ファスナー先生」やろ。
どうもありがとうございました。
今週のネタは以上です。
ところで。
今回の放送は年内最後の放送です。なので毎年恒例の年に一度の「ハガキ大賞」の発表です。今年1年間を通して一番ハガキのネタを採用された人に与えられるハガキ大賞。
発表の前に実はサプライズがあります。今年は我々88のオールナイトジャパンが始まって20年目の記念の年となります。いつもは我々からハガキ大賞の方に景品を差し上げていたのですが、20周年記念ということで今回だけは特別に僕らがハガキ大賞の受賞者のところにお邪魔しようかなと思ってます。それは職場でもいいし、学校でもいいし、家でもいいし、とにかくハガキ職人さんの都合のいいとこならどこでも構わないので、お邪魔して何かしらさせてもらえたらとおもってます。のちにスタッフから連絡を差し上げるので詳しくはその時にお伝えします。
それでは早速発表します。
今年のハガキ大賞は、ペンネーム、、、」

5 パスポート発行
「今週も始まりました、88のオールナイトジャパン。いつもは深夜1時からの生放送なのですが、今回は訳あってとある中学校の昼休憩を利用しまして学校の放送室をお借りしての公開放送です。
そしてゲストは、当校のライブラリーさんとファスナー先生です。」
「ペンネーム、ライブラリーこと幸介といいます。」
「どうもファスナー先生こと掛川と申します。この度はゲストとしてお招きいただき、そして我が校までお越しいただき誠にありがとうございます。」
「ライブラリーはいつも僕らの番組に投稿してくれて本当にありがとうございます。そしてまさかあのファスナー先生にお会いできるとは。光栄です。」
「あのファスナー先生って。すっかりいじられてますね。」
「度々ライブラリーがファスナー先生ネタをハガキで送ってくれるから、僕らもハマってしもてね。だから嬉しいですよ、お会いできて。」
「実は僕も88さんのヘビーリスナーなんです。ちょくちょく出てくるファスナー先生のエピソードがどうにも僕のことを言ってるように思えて少し気にしてたんです。せやから、もしかしたら自分の中学校にハガキ職人がいるんちゃうかと薄々思ってはいました。で、そのファスナー先生のネタを提供してるのがいつもライブラリーなんで、ある時ライブラリーと聞いてピンと来ました。ライブラリーつまり図書室。もしかしたらいつも昼休みに図書室におるアイツちゃうかと。それでそーっと図書室を覗いたら幸介がハガキ書いてるのを見つけたんですよ。
思わず言ってしまいましたよ。お前かー!いうて。」
「そしたらライブラリーはなんて言うたんですか?」
「うわー、ファスナー!!って。僕はもう一回言いましたよ。やっぱりお前やったんやなー!!」
「めっちゃおもろいやん、その出会い。スリル満点やな」
「僕はいつもラジオを聴いてるんでライブラリーがハガキ大賞を取ったことを知ってました。だから88さんがライブラリーといつかはお会いすることも知ってました。僕は幸介に聞いたんです。お前、88さんと会うんか?って。」
「ライブラリーはなんて?」
「まだなんも決めてませんって言うてました。」
「そうなんですよ。せやからうちのスタッフも困ってしもてね。サプライズプレゼントのつもりが実はライブラリーには要らんお節介やったんかなって。」
「幸介はとても繊細なんです。そしてとても賢い。休み時間にはいつも本を読んでるし、いろんな物事も、よー知ってるんです。それゆえにどうもまっすぐモノを見られへんというか、ナナメにモノを見るようなところがあるんです。だから僕ら教員は幸介にはもっと素直に自分を出したらくれたらええのにと常々思ってました。
なので今回88さんとお会いできるというプレゼントはもしかしたら幸介にとって自分を表に表現できるいい機会になるんちゃうかと思い、このような企画を幸介とスタッフさんにお伝えしました。」
「よう、ライブラリーも応じてくれたな。」
「そら、僕も88さんに会えるもんなら会いたいし。でも1人ではよう会わんし。だから、、、」
「このことを校長先生にお伺いしたら、それはオモロイ。ぜひやったらええやん、ということで今回の運びになりました。」
「しかしライブラリーはすごいな〜。自分では内気や言うてるけど、俺らの番組にハガキを投稿してくるだけでもすごいことやで。普通なかなかそんなんできへんもん。すごい行動力やで。何より自分のネタ、ホンマにおもろいし。学校でのライブラリーの様子はどんなもんか知らんけど、あんまり難しく考えずに俺らにハガキ出してくれてるみたいに自然体でいたらええんちゃうか。とにかくいつもありがとうな。」
「今回を機に、幸介が少しでも自分をオープンにしてくれたら僕としても嬉しいです。」
「先生は逆にファスナーをオープンにし過ぎないよう気をつけんと」
「やかましいわ」

学校中の笑い声が春風に乗って放送室を吹き抜けていくように感じた。

僕はなんだか88さんからパスポートをもらったようで嬉しくなった。

タイトルRe: 13歳からのパスポート
記事No4448
投稿日: 2018/10/15(Mon) 09:18
投稿者ようへい
USA様

さっそく読了いたしました。

様々な実体験や読書体験が、作品のベースとなっているんだろうな。と感じました。

オールナイトニッポンではなく、オールナイトジャパンへのはがき
は、
よのなか科への投稿ですよね。(^_^)

引き続き楽しみにしています。継続を是非お願いします。
分量的にも短編小説集のような感じが読みやすく私は、好きです。

奈良市在住 ようへい

タイトルRe^2: 13歳からのパスポート
記事No4449
投稿日: 2018/10/15(Mon) 19:19
投稿者USA
> 様々な実体験や読書体験が、作品のベースとなっているんだろうな。と感じました。

今回の小説で自分との共通点は、99(ナインティナイン)のオールナイトニッポンのヘビーリスナーで、ランニングしながらユーチューブで聴いている、ということくらいです(笑)

芥川賞受賞作を2作立て続けに読んで少し気分が暗くなってしまったので、前向きで笑顔になれるような小説を自分で書いてみたくなりました。
自分のストレスを吐き出すようでなんだかスッキリしました。

タイトルRe^3: 13歳からのパスポート
記事No4450
投稿日: 2018/10/15(Mon) 20:00
投稿者松井の母
USAさん、清涼剤のような小説ありがとうございます。
楽しく読ませていただきました。

息子が図書館大好き中学生で
「学校で一番本を借りてる」と豪語していた時期がありました。

父と息子の関係がどうなっていくか
続編を期待したいですが
ご予定はあるでしょうか。

そういえば、
クイズに応募していた我が家に突然ラジオ局から
女芸人さんが来たことがあったなあ。
今も活躍している女芸人さん、
あの当時は人見知り女子だったなあ。

いろんなことを思い出させてもらってます。

タイトルRe^4: 13歳からのパスポート
記事No4451
投稿日: 2018/10/15(Mon) 21:30
投稿者USA
> USAさん、清涼剤のような小説ありがとうございます。
> 楽しく読ませていただきました。

楽しんでいただけたようで良かったです。

> 息子が図書館大好き中学生で
> 「学校で一番本を借りてる」と豪語していた時期がありました。

すごい息子さまですね。僕が中学生だった頃は本を読んだ記憶がほとんどありません。だから今は過去を取り戻すかのように本を貪るように読んでいます。

> 父と息子の関係がどうなっていくか
> 続編を期待したいですが
> ご予定はあるでしょうか。

今のところ予定はありませんがアイデアが浮かべばまたチャレンジしたいです(笑)

> そういえば、
> クイズに応募していた我が家に突然ラジオ局から
> 女芸人さんが来たことがあったなあ。
> 今も活躍している女芸人さん、
> あの当時は人見知り女子だったなあ。

すごいですね。誰か気になる(笑)

タイトルRe^5: 13歳からのパスポート
記事No4452
投稿日: 2018/10/15(Mon) 22:24
投稿者松井の母
>
> すごいですね。誰か気になる(笑)

そっと教えますね。(と、よのなかフォーラムで大公開!)

くわばたりえさんです。
伊集院光の「日曜日の秘密基地」という番組でした。

ラジオのクイズに答えようと思った瞬間に
玄関からADさんとくわばたさんと
2人が飛び込んで来たので本当にびっくり。
忘れられない体験です。

タイトルRe^6: 13歳からのパスポート
記事No4453
投稿日: 2018/10/15(Mon) 23:46
投稿者USA
> くわばたりえさんです。

嘘のようなホントの話なので信じていただけないかもしれませんが、僕が高校生で野球部だった時の同級生に「桑波田」というヤツがいました。
くわばたりえさんは桑波田のお姉さんです。
僕はくわばたりえさんにはお会いしたこともないので詳しくは存じ上げませんが、桑波田は間違いなく野球部で一番面白いヤツでした。
笑いの才能は遺伝だと思います。

しかし、よのなかは広いようで狭いですね(笑)

タイトルシンクロしましたね^_^
記事No4454
投稿日: 2018/10/16(Tue) 00:12
投稿者ようへい
くわばたさんで
世の中がシンクロしました。
これもまさに よのなか科の醍醐味の一つかもしれませんね。
素敵な夜に感謝。
そして
私も続編希望に一票です。笑

タイトルRe: シンクロしましたね^_^
記事No4455
投稿日: 2018/10/16(Tue) 13:37
投稿者松井の母
> くわばたさんで
> 世の中がシンクロしました。
> これもまさに よのなか科の醍醐味の一つかもしれませんね。
> 素敵な夜に感謝。

本当に感動。よのなかフォーラム、
引き続きよろしくお願いいたします。

タイトルRe^2: シンクロしましたね^_^
記事No4456
投稿日: 2018/10/17(Wed) 12:59
投稿者USA
> 引き続きよろしくお願いいたします。

父と子の関係についての続編のリクエストがございましたので作ってみました。引き続きお楽しみいただけたらと思います。


6 田舎
「おい、幸介。今度の夏休み、父さんと2人で一緒に田舎のばーちゃんちに帰らへんか?」
誘ってみたのには理由がある。結局、親と子なんて言うものは面と向かっては語り合えない。でも気持ちは通じている。それだけはわかって欲しい。俺とは面と向かって話せなくても、俺の兄貴や母親、親戚には話せることもあるだろう。
俺は高校を卒業と同時に徳島から大阪に出てきた。実家は徳島の山間にあり、海も近く川もある。本当に絵に描いたような昔ながらの自然豊かな田舎の原風景がそこにはある。ビルに囲まれた都会からこのような田舎の自然に触れるのはそれだけで幸介にとっていい刺激になると思う。

「幸介、ばーちゃん家に行くのはいつぶりや?」
「覚えてへん」
俺自身も心の中で思い起こしてみる。前に幸介を田舎に連れて行ったのはいつだろう?3年前か、4年前か、あるいはもっと。いづれにしても仕事が忙しく、何しろ土日が休みな訳ではないから家族で一緒に休日を過ごすということ自体が難しい。

道中、特に会話らしい会話があった訳ではない。
88のラジオを通してライブラリーが幸介のことだと気づいた時はびっくりしたどころの騒ぎではなかった。ランニング中であったがあまりの驚きに正面からの車に気づかず危うく轢かれかけた。
ラジオのことを聞いてみたい気もする。でも俺はそこには触れない。なんだか幸介の大事な「場」のような気がするからだ。いくら親でも無下に踏み込んでいけない「場」がきっとある。
幸介は車の窓から太陽の光に照り返された明石海峡の海を眺めていた。どんな表情で見ているのだろう。

7 おっちゃん
「おー、幸介。久しぶりやのー。元気しよったか?」
和宏おじちゃんは父さんより4つ歳上だ。父さんは和宏おじちゃんとの2人兄弟。僕は和宏おじちゃんのことを昔から「おっちゃん」と呼んでいる。僕のおじいちゃん、父さんからすると実の父、は僕が2歳の頃に亡くなった。そのおじいちゃんのことを僕はおじいちゃんと言えずに「おっちゃん」と呼んでいたらしい。だからおじいちゃんが亡くなったあと、無意識に和宏おじちゃんのことを「おっちゃん」と言うようになったそうだ。
この「おっちゃん」、とにかく底抜けに性格が明るい。多分日本中の誰とでも仲良くなれるだろう。そう思わずにはいられないくらい誰とでも分け隔てなく話すことができる。
「幸介、お寺さん行くか?」とおっちゃん。
この寺は四国八十八箇所巡りのうちの一箇所で、正月には徳島中から人が集まるくらいの由緒ある寺である。
夏の暑さは堪えるが、なんとかして寺の本堂まで辿り着いた。
「どや、気持ちええやろ。ここからやったら町が一望できるけんの〜」
僕は少しずつ心が軽くなっているように感じた。

8 ばーちゃん
ばーちゃん、僕の父さんのお母さん、もまた明るい。何歳になっても、なお阿波茶の茶摘みにいくパワフルさ。そして何よりお酒が強い。無尽蔵に焼酎を飲む。酒を飲みながら「これ食べよ。あれも美味しいけんの〜。食べよ〜」と僕に無尽蔵にご飯を勧めてくる。田舎の人によくありがちな光景。
「もうホンマにこれ以上無理やわ。マジで食べれられへんって」と照れ隠し紛れにばーちゃんに悪態をつく。この時間もなんだか懐かしい。嬉しい。

9 海岸
ばーちゃん家から車で20分くらいのところにとある海岸がある。この海岸は全国的にも有名なウミガメの産卵地で近くにはウミガメだけの水族館があるほどだ。
海岸沿いを歩きながら、おっちゃんが「あそこに大きな岩があるやろ。幸介の父さんが小さい頃はあの岩までよう泳ぎに行きよったけんの〜」と僕に語りかけた。
夕焼けに染まる海の水面を見つめながら、父さんも僕くらいの年齢の時には毎日のようにこの綺麗な景色を見ていたのかなと思うと、少しだけ父さんとの距離が近くなったように感じた。

10 イルミネーション
「おう、幸介、また来いよ〜」
兄貴の言葉に「うん」と幸介は返事をしていた。その言葉は心なしか弾んでるように聞こえた。
兄貴や親戚が育てたお米や野菜などいろんなお土産を車に携え、幸介とともに帰路についた。
帰りの車内でも特にこれといった会話なかった。
しかし明石海峡大橋が見えたあたりで助手席から聞こえるか聞こえないかの小さな声で
「来年もまた来たいな」
と幸介がつぶやいた。
色鮮やかな虹色に変色する明石海峡大橋のイルミネーションを、今幸介はどんな表情で見ているのだろう。

タイトル続編に感謝
記事No4457
投稿日: 2018/10/17(Wed) 23:06
投稿者松井の母
USAさん、なるほど、こう続くのですね。

父と息子の微妙な関係を
故郷の人とのかかわりの中で描かれたのですね。

来年も父息子で帰省するのかな
それとも息子1人で帰省することになるのかな。

タイトルRe: 続編に感謝
記事No4458
投稿日: 2018/10/18(Thu) 00:06
投稿者USA
> 来年も父息子で帰省するのかな
> それとも息子1人で帰省することになるのかな。

うーん、どうなんでしょうね(笑)
この徳島ネタに関しては完全に僕のばーちゃんちをモチーフにしてます。
僕は小さい頃から毎年ばーちゃんちに行ってますし、結婚してからも妻を連れて行き、3歳の息子が生まれてからも毎年連れて行ってます。
ばーちゃんはまだまだ元気です(笑)

タイトルRe^2: 続編に感謝
記事No4459
投稿日: 2018/10/18(Thu) 08:31
投稿者松井の母
> この徳島ネタに関しては完全に僕のばーちゃんちをモチーフにしてます。

なるほど、そうなんですね。

個人的な希望としては

8ばーちゃん、 9海岸 など

もう少し書き込まれてもいいのかな・・
ばーちゃんも、おっちゃんも
久しぶりで帰ってきた孫、甥に対して
いろんな気持ちがあったのでは?と思ったりしてます。

すみません、実は、私、元小学校教師で
子どもたちの作文に
「こうしたらどう?」って声掛けしていた時代があるの。

タイトルRe^3: 続編に感謝
記事No4461
投稿日: 2018/10/18(Thu) 20:46
投稿者USA
> 個人的な希望としては
>
> 8ばーちゃん、 9海岸 など
>
> もう少し書き込まれてもいいのかな・・
> ばーちゃんも、おっちゃんも
> 久しぶりで帰ってきた孫、甥に対して
> いろんな気持ちがあったのでは?と思ったりしてます。
>
> すみません、実は、私、元小学校教師で
> 子どもたちの作文に
> 「こうしたらどう?」って声掛けしていた時代があるの。

ご丁寧な講評、ありがとうございます。
さっそくテコ入れしてみました。
よのなかネット、本当にすごいですね。
松井の母さんの教えに基づいて今まさに修正主義を実践させていただいております(笑)
少しは良くなったでしょうか?


6 田舎
「おい、幸介。今度の夏休み、父さんと2人で一緒に田舎のばーちゃんちに帰らへんか?」
誘ってみたのには理由がある。結局、親と子なんて言うものは面と向かっては語り合えない。でも気持ちは通じている。それだけはわかって欲しい。俺とは面と向かって話せなくても、俺の兄貴や母親、親戚には話せることもあるだろう。
俺は高校を卒業と同時に徳島から大阪に出てきた。実家は徳島の山間にあり、海も近く川もある。本当に絵に描いたような昔ながらの自然豊かな田舎の原風景がそこにはある。ビルに囲まれた都会からこのような田舎の自然に触れるのはそれだけで幸介にとっていい刺激になると思う。

「幸介、ばーちゃん家に行くのはいつぶりや?」
「覚えてへん」
俺自身も心の中で思い起こしてみる。前に幸介を田舎に連れて行ったのはいつだろう?3年前か、4年前か、あるいはもっと。いづれにしても仕事が忙しく、何しろ土日が休みな訳ではないから家族で一緒に休日を過ごすということ自体が難しい。

道中、特に会話らしい会話があった訳ではない。
88のラジオを通してライブラリーが幸介のことだと気づいた時はびっくりしたどころの騒ぎではなかった。ランニング中であったがあまりの驚きに正面からの車に気づかず危うく轢かれかけた。
ラジオのことを聞いてみたい気もする。でも俺はそこには触れない。なんだか幸介の大事な「場」のような気がするからだ。いくら親でも無下に踏み込んでいけない「場」がきっとある。
幸介は車の窓から太陽の光に照り返された明石海峡の海を眺めていた。どんな表情で見ているのだろう。

7 おっちゃん
「おー、幸介。久しぶりやのー。元気しよったか?それにしても大きなったなー。」
和宏おじちゃんは父さんより4つ歳上だ。父さんは和宏おじちゃんとの2人兄弟。僕は和宏おじちゃんのことを昔から「おっちゃん」と呼んでいる。僕のおじいちゃん、父さんからすると実の父、は僕が2歳の頃に亡くなった。そのおじいちゃんのことを僕はおじいちゃんと言えずに「おっちゃん」と呼んでいたらしい。だからおじいちゃんが亡くなったあと、無意識に和宏おじちゃんのことを「おっちゃん」と言うようになったそうだ。
この「おっちゃん」、とにかく底抜けに性格が明るい。多分日本中の誰とでも仲良くなれるだろう。そう思わずにはいられないくらい誰とでも分け隔てなく話すことができる。
久しぶりの対面の挨拶もそこそこに、おっちゃんが
「幸介、お寺さん行くか?」
と誘い出してくれた。
着いたお寺は四国八十八箇所巡りのうちの一箇所で、正月には徳島中から人が集まるくらいの由緒ある寺である。
夏の暑さは堪えるが、なんとか寺の本堂まで辿り着いた。頂上まで着いてみると気持ちの良い風が山から吹き下ろしていた。
「どや、気持ちええやろ。ここからやったら町が一望できるけんの〜」
おっちゃんはそう言いながら、久しぶりの再会をなんだかとても喜んでいるようだった。
僕は帰りの階段を一歩降りるごとに心が軽くなっているように感じた。前を歩くおっちゃんと父さんの後姿はとてもそっくりで僕は思わず笑ってしまった。

8 ばーちゃん
僕の帰省に一際喜んでくれていたのがばーちゃんだ。少し脚が弱っているからなかなか満足には歩けないけれど、何歳になってもなお阿波茶の茶摘みにいく元気いっぱいのばーちゃん。
ばーちゃんはお酒が大好きだ。無尽蔵に焼酎を飲む。酒を飲みながら「これ食べよ。あれも美味しいけんの〜。食べよ〜」と自分の飲むお酒の量と比例するかのように無尽蔵にご飯を僕に勧めてくる。
おっちゃん曰く、今日のお酒のペースはいつもにも増して速いらしい。
「もうホンマにこれ以上無理やわ。マジで食べれられへんって」と照れ隠し紛れにばーちゃんに悪態をつく。この時間もなんだか懐かしい。
「幸介はこんまい頃はホンマに可愛らしい顔しよって、よー女の子に間違えられよったけんの〜。それがこんなに大きなって」
とばーちゃんに言われ、僕は嬉しいような恥ずかしいような甘酸っぱい気持ちになった。
僕は大きくなったけど、前に来たときよりもばーちゃんは小さくなったような気がする。僕の心は少しズキンとした。
程よく酔いが回ったばーちゃんは、おじいちゃんが満州から引き上げてきた時の話や、実の妹と一緒に旅行したソ連解体後すぐのロシアの話など歴史の教科書に出てくるような話を僕にしていた。正直お酒が入っている状態のばーちゃんの話はほとんど理解ができなかったが、とにかくばーちゃんはよく喋り、よく笑いそして何より嬉しそうだった。

父さんと僕の久しぶりの帰省に、親戚がたくさんばーちゃん家に集まっていた。
「幸介の父さんは昔はそりゃ男前やったぞ。」
「お前が通ってた学校、もう取り壊されて今はのうなったわ。」
そんな取り留めのない話をみんな楽しそうに話していた。
その横で心地よい疲れが僕を眠りに誘った。みんなの夜はいつまで続いていたのかな。

9 ウミガメ海岸
翌日父さんは同窓会があるとのことなので、おっちゃんが通称「ウミガメ海岸」まで連れて行ってくれた。ばーちゃん家から車で20分くらいのところにある海岸で全国的にも有名なウミガメの産卵地だ。海岸の近くにはウミガメだけの水族館があるほどだ。
海岸沿いを歩きながら、おっちゃんが
「あそこに大きな岩があるやろ。幸介の父さんが小さい頃はあの岩までよう泳ぎに行きよったけんの〜」
とポツリ独り言のように僕に語りかけた。

おっちゃんはよく父さんに電話をしてくる。
そこではどんな会話をしてるんかな?
僕のことも話題には出てるんかな?
そんな時、父さんはおっちゃんに僕のことをどんな風に話しているのだろう。
もしかしたらおっちゃんは少しでも僕と父さんの距離を縮めたくてウミガメ海岸に連れてきてくれたんかな。
考え過ぎなんかな?心の中で微笑む。
目の前には水平線に夕陽が沈みかけていた。あまりの幻想的な情景に僕は息を飲んだ。
父さんも僕くらいの年齢の時にはこんな風にこの景色を見ていたのかな。
そう考えると少しだけ父さんとの距離が近くなったように感じた。

10 イルミネーション
「おう、幸介、また来いよ〜」
兄貴の言葉に「うん」と幸介は返事をしていた。その言葉は心なしか弾んでるように聞こえた。一方母さんは寂しそうに「また来んね」と言い、別れを惜しんでいた。
兄貴や親戚が育てたお米や野菜などいろんなお土産を車に携え、幸介とともに帰路についた。
帰りの車内でも特にこれといった会話はなかった。
しかし明石海峡大橋が見えたあたりで助手席から聞こえるか聞こえないかの小さな声で
「来年もまた来たいな」
と幸介がつぶやいた。
明石海峡大橋はイルミネーションが代わる代わる七色の虹色に輝いていた。
サイドミラー越しに見えた幸介の表情ははにかんだような笑顔だった。

タイトルバージョンアップ版 読了 (^_^)
記事No4465
投稿日: 2018/10/19(Fri) 22:23
投稿者ようへい
日本からものづくり が失われるにつれて ものづくり日本 という言葉が広がるように、田舎の原風景や地域のコミュニティが失われてくると、このような体験に思いを馳せたくなるのかもしれませんね。

私のような田舎者にっとてはなんとなく理解と想像が出来る話ですが、
都心のタワーマンション暮らしの方が大きくなって、子供を連れて行くとしたらどんな感じになるのか興味がわきました。


いずれにせよ、徐々に日本から失われていく世界観のように感じられ、少しだけセンチな気分になりました。

あえていいます。

続編お願いいたします!

奈良市在住 ようへい

タイトルRe: バージョンアップ版 読了 (^_^)
記事No4469
投稿日: 2018/10/20(Sat) 22:13
投稿者松井の母
USAさん、早速ありがとうございます。

東京で生まれ育ってしまった夫と私。
子どもたちには「田舎」と呼べる場所がありません。
故郷があるって、いいな・・。

《前を歩くおっちゃんと父さんの後姿はとてもそっくりで僕は思わず笑ってしまった。》
この一文が何だかとっても好きです。

これからもUSAさんの小説、楽しみにしています。

タイトルRe^2: バージョンアップ版 読了 (^_^)
記事No4470
投稿日: 2018/10/20(Sat) 23:06
投稿者USA
> 東京で生まれ育ってしまった夫と私。
> 子どもたちには「田舎」と呼べる場所がありません。
> 故郷があるって、いいな・・。

3歳になる自分の息子を徳島のばーちゃん家に連れていった時も、それはそれはテンションが上がって凄かったです。田舎のパワーはすごいです。

> 《前を歩くおっちゃんと父さんの後姿はとてもそっくりで僕は思わず笑ってしまった。》
> この一文が何だかとっても好きです。

実際おっちゃんとうちのオトンの後ろ姿はそっくりで笑えます。
電話での声なんて聴き分け不可能ですよ。
僕にも弟がいますが、僕らも似ているみたいです(笑)


> これからもUSAさんの小説、楽しみにしています。

ありがとうございます。そういっていただけて本当に嬉しいです。